1. 局所トーリック3次元カラビ・ヤウ多様体の上の位相的弦理論に対しては,開弦の振幅函数を整数分割でラベル付けされた項の和として表す方法(位相的頂点の方法)が知られている.特に一般化コニフォールドと呼ばれる場合には,この方法によって振幅函数の閉じた表示が得られる.この振幅函数を弦の境界条件を表す整数分割について母函数化したものは可積分階層のτ函数や波動函数になる.今回の研究ではこの波動函数が特別なq差分方程式を満たすことを示した.このq差分方程式は一般化コニフォールドのミラー曲線の量子化(量子ミラー曲線)を与えるものと考えられる.さらに,母函数を戸田階層のτ函数とみなした場合のラックス作用素やオルロフ・シュルマン作用素からも量子ミラー曲線が読み取れることを見出した. 2. 昨年度までの研究では5次元のN=2超対称ゲージ理論の溶解結晶模型(ランダム平面分割)を1次元戸田階層の観点から論じてきたが,今回はこの模型を少し修正することによってアブロビッツ・ラディック階層が現れることを見出した.同時に,昨年度まで考えていた修正の仕方ではアブロビッツ・ラディック階層が現れないということも明らかになった.今回の模型の場合にも,以前の模型と同様に,分配函数のフェルミオン表示から出発し,背後の量子トーラス代数の基底の間に成立する代数的関係式(シフト対称性)を用いて,分配函数を2次元戸田階層のτ函数に書き直した.さらに,このτ函数に対する2次元戸田階層のラックス作用素を求めて,それらがアブロビッツ・ラディック階層に特徴的な形をもつことを確かめた.ラックス作用素の形を決める計算は一般化コニフォールドの量子ミラー曲線を求める計算と同じアイディアに基づいている.また,これらの計算を通じて量子ダイログ函数との関係が見えてきたが,これは今後の新たな研究の題材となり得る.
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