研究概要 |
アハラノブとボームによって理論的に予測されていたベクトル・ポテンシャルの実在(アハラノブ・ボーム効果)を物理的に外山彰らが実験によって確認したのは,リング内に閉じ込められたごく細い磁力線を用いてであった。この数学的モデルとしてリングに閉じ込められている磁場をもつシュレディンガー作用素を考えることが出来る。我々はその作用素において磁束を一定に保ったままでリングの太さを無限に細くするときに全空間で定義されたシュレディンガー作用素がノルム・レゾルベントの意味で全空間上でリングの収束先である円周にディリクレ境界条件をおいた作用素に収束することを2009年の論文で示すことができた。収束先の作用素は非常に特異な磁場をもつが対称性が高く単純な形であるため散乱の性質を具体的に求めることが期待される。2009年の結果においてはリングの内部のベクトル・ポテンシャルの形を具体的に与えていたが,ある程度一般の磁場の場合にも同じ作用素にノルム・レゾルベントの意味で収束することを示すことができた。またリングの外部領域でリング表面ではディリクレ境界条件をつけた作用素を考えた場合も同じことを示すことが出来た。また収束先の作用素の散乱理論について調べるための準備として,そのスペクトルについて調べた。そのスペクトルは非負の実数全体からなる区間であり絶対連続スペクトルのみから成ることを示し,全空間で定義される自由粒子のハミルトニアンであるシュレディンガー作用素との間の波動作用素の存在と完全性を示すことが出来た。
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