研究概要 |
タイヒミュラー空間のトレース関数による大域的座標系について研究を行った。得られた成果は以下の通りである。(1)2つの穴あきトーラスおよび種数2の閉曲面のタイヒミュラー空間の大域的座標系を7個のトレース関数によって与えた。さらにその座標系を用いると写像類群の作用が有理変換群によって表現できることを示した。この結果は3次元双曲多様体の具体例の構成に応用される。ただし、有理変換の表現は複雑で巨大な式を伴うため、応用には効率的な数式処理が必要であり、その開発は今後の課題である。種数gが3以上の閉曲面のタイヒミュラー空間の6g-5個のトレース関数による大域的座標系についても研究したが、それによる写像類群の表現がどのようになるかは未知である。(2)穴あき曲面群のSL(2,C)表現空間のPennerの座標系の複素化について研究した。Helsinki大学のM.Naatanenとの共同研究の継続であるが、新しい結果として、曲面上の単純イデアル弧の長さのPennerの座標による有理関数表現の特徴付けを与えた。また、その結果を不定方程式の整数解や3次元双曲多様体の構成に応用した。以上の(1)、(2)の結果はタイヒミュラー空間の幾何的(とくにWeil-Petersson幾何的)諸相の理解をより容易にするものである。(3)3つの穴あき曲面の双曲計量についての、測地線の長さに関係したMcShane型の恒等式を証明した。その証明において階数2の自由群の生成系を一つ与えたとき、他の生成系を生み出すアルゴリズムを、Osborne-Zieschang, Gilman-Keenの結果を背景に与えられた生成系の「語」として「回文的」であることを手がかりとして見つけた。
|