本研究における当初目的は次の境界値逆問題と散乱逆問題について考察することであった。 (1) 熱方程式の境界値逆問題を「囲い込み法」の視点から解析する。 (2) 弾性表面波に対する定常問題に関する散乱逆問題を解析する。今年度も引き続き、連携研究者の池畠勝氏(群馬大学)と共同で研究を継続した。当初の計画に従えば、上記の(2)の研究課題について考察を進めるべきであるが、これまでの(1)の考察で得た成果を踏まえ、「最初に内部の境界にぶつかる点までの長さ」を見ているという現在の見解が本当に正しいのかどうかについて調べることを優先させた。 一般に、境界値逆問題の研究では、観測データに関してこれまで次の2通りの場合が本研究の遂行に伴い調べられてきた。 (i) 無限回観測(無限個の観測データを用いることを認める設定)の場合。 (ii) 一回観測(一回の観測しか許さない設定)であるが、無限回観測のときと同じ発想、定式化を適用した設定の場合。 一回観測では(ii)と異なり、無限回観測のときとは異なる設定も考えられる。最終年度である今年度は、この新たな設定の場合に囲い込み法の設定が「最初に内部の境界にぶつかる点までの長さ」を見ていることになっているのかどうかについて調べた。(i)、(ii)では、内部構造が穴、または介在物(境界はある程度なめらか)のみであることが事前に分かっている場合の両方について調べられていたが、この場合は(i)、(ii)のときよりも制約が大きく、内部構造が穴のみで、穴の形は強い意味で凸であるという仮定のもとで考察した。内部構造に対する先見情報の仮定は強くせざるを得なかったが、昨年度までに明らかにされてきた最初に内部の境界にぶつかる点までの長さ」を見ているという見解は正しいことが確認できた。
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