当該研究で考察した系は、非線形拡散項と生物の増殖・死滅による個体数変化を表す非線形項を持つ放物型走化性方程式系である。その解は、拡散項、走化性を表す項、そして個体数変化を表す項の性質によってその形状や挙動が決まる。これら3つの項の満たす条件を以下では方程式系の条件と呼ぶ。方程式系の条件によっては、有限時刻、または無限時刻で爆発する解をもつ場合がある。 本研究では、全ての初期値に対して一意的に時間大域的な解が存在し有界であるための方程式系の十分条件を明らかにした。一般的に非線形拡散項を持つ系に対して、解の一意性を示すことは簡単ではない。その意味で、この成果は重要であると考える。そして、ここで得られた解の時間大域的な有界性を用いる事により、解の大きさと初期条件の関係を明らかにした。具体的には、解の大きさの時間に関する最大値と初期値の大きさとの関係を明らかにした。この関係を用いる事により、我々は弱い意味でのアトラクターの存在を示す事が出来た。ここで、一般的に解がとりうる関数の集合よりも小さな集合であり、時間がたつに従って解がその小さな集合に近づくとき、その小さな集合をアトラクターと呼ぶ。つまり、アトラクターは時間が十分に経った時の解の挙動を表している。 本研究全体の目的は、爆発する解をもつ方程式系の条件や爆発解の挙動を考察することであるが、本年度の研究では考察する系が爆発解を持たない十分条件を示した。この研究は、爆発解を持つ方程式系の条件を確定すると言う意味もあり、本研究全体の目的である爆発解の研究に対して有意義な研究であると考える。
|