研究概要 |
本研究は波動方程式、クライン・ゴルドン方程式、シュレディンガー方程式及びそれらの周辺に現れる様々な数理モデルの波動伝播現象を研究対象にし、中心課題を磁場中の波動伝播の漸近解析においた. 2010 年に発表した論文で磁場を伴うシュレディンガー作用素のリゾルベントの一様評価(特に低エネルギー部分の評価)を求め、平滑化効果に応用したが、適用範囲は初期値問題だけでなく外部境界値問題にも広がることに注意したい. 今年度はこの結果を基に、上記の分散型方程式の解の漸近性質を摂動論的手法を用いて考察した. 摂動は時空の変数に依存するもの、自己共役でないものなど多岐にわたり、対応する問題はエネルギー減衰, 非減衰、散乱状態の存在、散乱作用素の構成から散乱逆問題にまで及ぶ. 更に、平滑化効果を Strichartz 評価に発展させることにより, 今後の非線形問題の研究に足がかりを得ている. もうひとつの研究テーマである量子グラフの散乱問題では、ループを含む無限グラフ上のシュレディンガー作用素に対してスペクトルの性質を調べ、散乱逆問題に取り組んだ. これは散乱データからポテンシャルを定める問題であるが、連続スペクトルに対するスペクトル表現(パーシバルの等式)と散乱データからマルチェンコの基本方程式を導くことに成功し、まず、逆問題の一意性を示した。再構成問題は今後の課題になる. ただループの存在は、連続スペクトルに埋め込まれた固有値の存在など、問題を複雑にしており解決には更なる解析が必要になる.
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