量子代数の中でも基本的なものに、正準交換関係代数(CCR代数と略記)と正準反交換関係代数(CAR代数と略記)がある。最初の研究成果として、CCR代数の自由状態間の遷移確率公式の応用としての角谷二分律について、その結果を論文形式にまとめ、関連分野の研究会の場で講演・発表することができた。 その内容であるが、2つの自由状態から生成される作用素代数は、同型であるか、同型な部分をまったく含まないか、のいずれかであること(角谷二分律)。 さらに、この2つの場合が、自由状態間の遷移確率の有無、すなわち、遷移確率が正であるか否か、で判定できること。後者は、無限直積測度に対する角谷の判定法と類似のものではあるが、これまで知られていなかったものである。 ついで、CAR代数の場合の同様の結果が成り立つかどうかについても調べた。 この場合は、ほとんどすべての自由状態が因子環という分割不分性を有する作用素代数を生成することが知られており、二分律そのものは成り立つものの、自明に近いものになっている。ただし、CAR代数の形としてクリフォード代数形式を採用すると、例外的な場合ではあるが、因子環とはならない場合が出現し、二分律の存在を確かめることに意味があることが、研究協力者の一人である松井卓氏との共同研究で明らかになった。これについては、現在、論文として発表すべくまとめの作業を行っているところである。また、この非因子環性に関連した話題として、自由状態を偶代数部分に制限した場合に二分律が成立しない現象についても、その詳しい情報を得ることができた。 最後に、当初計画にあったテンソル圏への応用については、上記の二研究に多くの時間が割かれたという事情もあり、準備段階にとどまった。
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