研究概要 |
量子群の表現論は,数理物理をはじめとして結び目理論や整数論などの広い範囲にわたって応用されている.これまでの研究では,量子群の半単純表現と呼ばれるものを用いたものがほとんどであったのであるが,本研究では,量子群でのパラメータqが1の冪根である場合の,射影表現という,必ずしも半単純とはならない表現に注目し,結び目や3次元多様体の不変量への応用を調べている.量子群から構成される不変量は,体積予想を通じて,対象となる結び目の補空間や,3次元多様体の幾何構造と深く関係していることがわかってきている.本研究の一つの目的は,この幾何構造と量子不変量との関係が,射影表現を用いることでよりクリアーにすることである. まず,体積予想に関しては,チョジンシオック氏との共同研究により,ツイスト結び目の補空間に関して,量子不変量から補空間の体積のみならず,チャーン・サイモンズ不変量と呼ばれるものも得られることを示した.これは従来の半単純な表現に対応する不変量との対応である. 一方,フランセスココスタンチーノ氏との共同研究により,射影表現に対応する6-j記号を具体的に表し,この6-j記号の極限として3次元双曲空間中の切頭四面体の体積が現れることを示した.従来の半単純な表現に対応する6-j記号ではオプティミスチック極限という形でしか体積が出なかったのに対し,本当の極限として体積が得られた点が新しいところである. さらに,6-j記号と四面体の体積との関係から,3次元球中の4面体の体積についても公式を構成することができた.対称性を持つ四面体に対しては体積を表す公式は知られていたが,一般の形の四面体に対する公式としては初めてのものであり,幾何ばかりでなく,確率や組み合わせ論に対しても多くの応用が期待できるものである.
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