複素力学系の理論に応用するために、有理関数のメビウス共役類からなるモジュライ空間の忠実な表現を与えることが本研究の目標である。平成22年度は、数式処理システムを用いた計算実験を交え研究を行った。多項式に関しては、代表者の先行研究において未解決となっている部分の研究を続行し、さらに、有理関数に関しても、数式処理システムによる計算実験を交え退化現象の解析を行った。有理関数では以前に代表者により得られている多項式の場合の結果とは異なる現象が現れることが分かった。起こりうる現象すべてを定式化することが今後の課題である。 有理関数族の空間に大域座標を導入するという研究成果が奈良女子大の谷口氏との共同研究として公刊(2010)されたが、ここで得られた座標空間を上記の有理関数の退化現象の記述に利用できると考えている。これについて今後さらに谷口氏と研究を進める予定である。Goldbergの問題(特異点集合に対応する有理関数の同値類の個数の決定に関する問題)を扱った谷口氏、奈良女子大の後期課程のKarima氏との共同研究の研究成果が受理され公刊待ちの状態であるが、その研究から派生した問題から得られた結果を京都大学数理解析研究所研究集会で口頭発表した。また、Julia集合の描画アルゴリズムに使われる近似式の精度の評価に関する研究を防衛大の後藤氏、同研究科の吉田氏との共同研究として行っている。これについては、部分的ではあるが興味深い結果が得られており京都大学数理解析研究所研究集会で発表を行った。今後もさらに詳細に解析を行い、より深い結果を導きたい。
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