大量のガスがブラックホールに落ち込むと、ガスはブラックホールの近傍できわめて高温になり、光り輝くようになる。そして光の放射圧によってガスの多くは吹き飛ばされる。本研究では、ブラックホール周辺から光速近くの速度で吹き出す高温のガス流-ここでは「ブラックホール風」と呼ぶ-の形成や観測的特徴について調べる。 ブラックホール風が光学的に厚い場合、光り輝く光球面(実際に観測される表面)がどこに位置するかは、単純ではなくなる。とくにガスの流速が光速近くになると、相対論的効果を考慮して決めなければならない。われわれのグループでは、そのような球対称ブラックホール風のスペクトルなどを調べていたが、本研究では、より精密なモデルに基づいて、球対称ブラックホール風や超臨界降着円盤風の観測的特長とスペクトルを調べた。その結果、ブラックホール風のスペクトルは典型的にはべき関数型になることがわかった。また降着円盤風を伴った超臨界降着円盤のスペクトルは、"裸の"超臨界降着円盤に特徴的な平坦なSEDとはまったく違うスペクトルになることがわかった。 一方、ブラックホール風を含め、相対論的な流れにおける輻射輸送の問題は、定式化自体が完成していないこともあり、まだまだ研究が不十分である。本研究では、相対論的な流れにおける輻射輸送の問題についても、解析的な立場から研究を進めている。鉛直方向に1次元の場合について、まだ速度が一定という単純なモデルではあるが、2流近似やミルン-エディントン近似など静止平行平板大気における古典的な近似を用いて、相対論的な流れにおける解析的な解を新たに発見した。輻射輸送方程式における解析解は具体例が数少なく、相対論的な領域ではなおさら知られていないので、これらの解析解は当該分野においては非常に貴重な発見である。
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