研究概要 |
Suzakuの観測から,再結合X線放射を示す超新星残骸は,電波の強度分布はシェル様であるがX線はその内部に非球対称な分布を示すmixed-morphology(MM-SNR)に分類されるものであることが分かってきた.また,理論的研究では,恒星風物質中で爆発した超新星の残骸の進化を数値計算で追い,再結合X線放射やMM-SNRのX線輝度分布を再現できることが分かってきた.超新星の周りの物質分布は,基本的に,爆発前の恒星風活動,質量損失率や恒星風速度で決まる.そこで,これらに依存して再結合放射や輝度分布がどのような多層性を示すか計算を進め,研究結果を学会講演の他,論文で発表した. 一般に,赤色超巨星の恒星風は青色超巨星に比べて質量損失率が1-2桁大きく速度は2桁小さいとされるが,計算では一定の質量損失率に対し速度を1桁変えて比較を行った.また,星間物質の密度については,H II領域が形成されていた可能性を考え1桁変えて比較した.これらの結果,Wolf-Raye星や青色超巨星の1000km/sオーダーの恒星風では再結合状態が弱まること,一方,赤色超巨星の10km/sオーダーの恒星風では衝撃波のブレークアウトが早い時期に生じるため,観測されているようなMM-SNRの年齢では特徴的な輝度分布を再現できない可能性があることが分かった. MM-SNRは比較的重い星のコア崩壊型超新星と考えられ,その環境にはH II領域や分子雲など星形成領域の特徴が見られる.実際,メーザーやγ線放射から分子雲との相互作用が示唆されている.そこで,恒星風物質だけでなく,古いH II領域やH Iガス,分子雲など複雑な環境を考慮し,電波シェルやγ線といった非熱的放射も視野に入れて,MM-SNRの形成・進化と再結合X線放射の関係をさらに調べている.この研究の一部は天文学会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観測的研究では,再結合X線放射とmixed-morphology超新星残骸(MM-SNR)との関係を明らかにしつつある.また,理論的研究では,再結合プラズマ状態の起源として超新星の周囲にあった物質(CSM)からの衝撃波のブレークアウトが有力な物理過程であることを示し,CSMとして恒星風物質を想定してMM-SNRに特徴的なX線輝度分布を再現することができた.年齢の問題など未解決の課題もあるが,再結合X線放射を手がかりにMM-SNRの多様性や起源の解明に向けて順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究の進行にとくに問題はないので,このまま計画どおり観測的・理論的両面から再結合X線放射を示す超新星残骸(これまでの研究からmixed-morphology超新星残骸が有力)の起源の解明に向けて研究を進める.今年度取り組む具体的な課題としては,超新星残骸の年齢との整合性,非熱的放射とくにγ線放射の起源が挙げられる.ただし,今年度は計画の最終年度なので,計画当初の研究課題に一区切りを付けること,発展的な課題を見出すことを意識しながら研究を進めたい.
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