研究課題/領域番号 |
22540254
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
加藤 万里子 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50185873)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 天体物理学 / 理論天文学 / 新星 / 白色矮星 |
研究概要 |
本年度に出版された英文の原著論文は5編、それに総説論文が1編である。主な成果は、まず共生型新星PU Vulの爆発進化を追いかけたものがある。可視光、紫外線、伴星の観測という3つの独立なデータを組合わせて、連星系までの距離と星間吸収の量を正確に決めることができた。また白色矮星が軽い場合には、PU Vulのように新星風がまったく起こらないものと、V723 Casのように途中から新星風が起こるものがあることも示した。 また小マゼラン銀河にある共生星の連星系モデルも構築し、連星系の周囲にあるガスがX線を吸収するためにX線の光度曲線が変化することを説明し、赤色巨星が照り返しのために明るくなっていることで可視光と赤外線の光度変化も同時に説明できた。これは今後新星(伴星が赤色巨星)のX線解析にとり重要なヒントになると考えている。 回帰新星はIa型超新星の親天体候補として、また連星系の進化にとって要となる重要天体である。そこで本年は回帰新星の進化に続くものとして、チャンドラセカール質量を超える白色矮星がどのように形成されるかを、連星系の進化を追うことにより明らかにした。また早く自転する白色矮星では、質量降着がとまらずに白色矮星の質量がチャンドラセカール質量を超えても、角運動量を外に輸送するまでは白色矮星の中心で爆発条件がみたされないため、超新星爆発には至らないこと、そのためIa型超新星として爆発が観測されたときには、伴星は進化がすすみ、非常に暗い星になっていることも示した。 最後に総説論文では、回帰新星とIa型超新星との関係についての理論面を概説した。理論的に解明されたこと、解明されていないこと、今後の研究にむけての方策を概論した。これは現在急速に進展しているIa型超新星の今後の観測的研究にとって、指針となるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
5年計画で申請した本研究課題は3年が経過した。本申請課題「新星の理論的全天サーベイ」ではこれまでに出た新星の光度曲線解析を可能なかぎりたくさん行い、その性質の違いなどから、銀河の進化などについての知見も得る、ということである。研究は計画どおり順調に行われていると考えている。 これまでにあらわれた新星のうち、光度曲線が早いもの(白色矮星質量が重いもの)と非常に遅いもの(白色矮星質量が太陽質量の0.6倍程度で新星風が起こるか起こらないかのぎりぎり)について、可視光と紫外線の観測データがそろっているものはすべて解析を行った。今後はX線のデータがある新星の残りについて解析を行う必要がある。またアンドロメダ銀河や球状星団など種族の違う新星についての解析が残っているが残り2年間の研究期間で解析できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は次のようなものを考えている。 1.球状星団やアンドロメダ銀河など種族の違う新星について解析し、種族による新星の性質の違いを明らかにする。2.銀河系にあらわれた新星で未解析のものを解析し、白色矮星の質量などの統計をとる。これは連星系の進化の研究にとり重要な情報となる3.新星の色等級の変化を調べ統計的に解析する。4.最近爆発したT Pyxなどの解析を行う。 これらを遂行するため、国内外の観測天文学者(可視光やX線など)と緊密な連携をとることが必要である。そのためには、国内で小規模の研究会を開催したり、国外へ出かけて積極的に外国の研究者と議論や共同研究をすることが必要である。
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