平成22年度は、春に81P/Wild2彗星を、秋には103P/Hartley2彗星の近赤外線高分光観測を行った。いずれもカイパーベルトに起源をもつと考えられており、特に後者は2010年11月にNASAが行ったEPOXI探査ミッションのターゲットとなり、探査機との同時観測として大きな意味があった。探査機からは、ターゲットとなった103P/Hartley2彗星の近接直接撮像が行われるとともに近赤外波長域での低分散分光などが実施されており、一方、探査機では実施できない近赤外線高分散分光観測を地上から実施することで、探査機と相補的な観測を実施できた。ガスの空間分布や時間変動について貴重な結果が得られており、観測成果の一部は早速論文として投稿し、すでに受理されている。 103P/Hartley2彗星については、1990年代に行われた赤外線衛星ISOによる観測の結果との比較に加え、探査機による観測結果から、新しい結果が次々に得られつつある。化学組成比は従来の彗星と似ているものの、原子核スピン温度は若干高めであった。また、そのガス放出率は彗星核表面の場所によって大きく異なっており、彗星核の自転に伴い、変動していることが我々の観測から明らかになっている。ほぼ同時期に共同研究者と行った可視光での高分散分光観測からも窒素原子の同位体比が判明しており、そうした観点からは他の彗星に似た特徴を持っているといえる。一方、81P/Wild2彗星については、特定の分子が著しく欠乏するなど、特殊な環境下で形成された可能性があり、現在、解析を継続中である。これに関連して、可視光高分散分光データに基づいたアンモニア分子のサーベイも並行して行っており、窒素同位体比との関連を明らかにした。
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