研究課題/領域番号 |
22540258
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 英則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (80361567)
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キーワード | 大質量星 / ウォルフ・ライエ星 / 近赤外線 / 分光撮像観測 |
研究概要 |
平成23年度はまず研究実施を行う機関の機器整備を行った(県立ぐんま天文台150cm望遠鏡近赤外線カメラ)。新たな知見を得るための新規フィルター(N219:2.19um)を製作、インストール作業を進めた。これにより、これまでのフィルターバンドでは不確定性が大きかった特定の天体(WN型ウォルフ・ライエ星)から輝線強度を正確に求めることが可能になった。試験的観測として北天から観測可能な系内の大質量星形成領域をこのフィルターおよびこれまで使用しているフィルター(N207:2.07um、Ks-band)を用いて観測を行った。その結果、既知のWN型ウォルフ・ライエ星について予測通りに検出されていることを確認し、この観測(フィルター)システムが、ウォルフ・ライエ星の検出という一つの目的に対して有効なツールであることが証明できた。本観測は天候不順や制御計算機の不具合などもあり、予定されていたデータの完全取得には至っていない。この観測計画は比較的高い精度の測光観測が必要であるため、天候などの考慮しつつ引き続き観測を継続していく。上記に関する本年度の補助金については主に、データ取得・解析等に必要な計算機および周辺機器、ならびに現地作業への旅費に充当した。 上記に平行して、南米・チリのアタカマ高地チャナントール山頂にある東京大学アタカマ天文台miniTAO-1m望遠鏡搭載の近赤外線カメラ(ANIR)でウォルフ・ライエ星探索サーベイ観測を継続した。特に銀河中心方向や系内大質量星形成領域の狭帯域フィルター(Ks, N207, N187:1.87um)による撮像観測を遂行し、既知の大質量星を検出した他、色-等級図、色-色図から大質量星の種族分類や低温度星、ミラ型星、YSOなどの「赤い天体」も検出できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画としてたウォルフ・ライエ星の検出効率の高い新規フィルター(N219:2.19um)を製作し、国内の赤外線カメラにインストールした(県立ぐんま天文台近赤外線カメラ)。試験的観測の結果、これまでカタログ化されている既知のWN型ウォルフ・ライエ星を正確に検出した。他のフィルターでの測光結果と併せて考察したところ、先行研究の結果と相違ないことを確認した。この観測計画は、比較的精度の高い測光観測が必要であるため、よい観測条件が必須となる。特に国内での赤外線観測は水蒸気量や天候の時間変化が大きく、高い精度が得られないことが多い。最適な解析手法を考案しているが、データそのものの安定性は不可欠である。気象条件を注視しながら今後の観測を継続していく。 南天では引き続きチリ・アタカマ高地チャナントール山頂にある東京大学アタカマ天文台miniTAO/ANIRで観測を行った。銀河系内外の大規模星形成領域を中心に、複数の領域に渡り撮像観測を実施した。星形成活動度の違いによる星の種族の違いなども見られており、興味深い結果となっている。現在詳細解析を行っており、出来るだけ早期に結果を学術論文などへの公表を考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、可能な限り多くの未同定天体の発見、また統計的サンプル取得を目的としている。そのために、これまで行っている大質量星探索サーベイ観測を継続する。観測サイトは、自身が設計した探索サーベイに最適化されたフィルターシステムが内挿されている国内外の赤外線カメラ(ぐんま天文台150cm望遠鏡GIRCSやmini-TAO 1m望遠鏡ANIRなど )を引き続き用いる。さらに将来的には国立天文台・岡山天体物理観測所の近赤外広視野カメラ(OASWFC)に新たにフィルターを設置し、同様の観測をさらに広視野で行うことも計画している。観測領域として過去に観測が疎で、且つ大質量星形成領域を中心に選択することで、検出確率が高まることが期待される。また、我々の研究グループでは今回の狭帯域フォルターを組み合わせた色-色図を用いると、大質量星の種族を区分できることを発見しており、環境や年齢が異なる大質量星形成領域について、進化段階やIMFの違いに迫るための観測を行う。 さらにこの探索サーベイで見つけた候補天体の分光観測することで、大質量星のタイプおよび サブクラスの詳細分類を行う。また、系統的に大質量星のスペクトルを取得・分類を行うことで今後の研究のデータベースを構築する。分光観測には既存の分光器を搭載したサイトへの観測提案を行う他、新規分光素子の開発も視野に入れる。 研究成果は、成果が出次第、国内外の研究会・学会等で発表し、学術論文として投稿する。特にこの分野に関しては、国内以上に海外での研究が進んでおり、そのような研究者との交流、情報交換、今後の議論の場に積極的に参加することで、本研究をさらに推し進めて行くために国内外の学会・研究会等で報告する。
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