研究概要 |
本研究は、恒星と惑星の中間状態にある褐色矮星大気の物理的・化学的状態を、赤外線天文衛星「あかり」で得られた近赤外線分光観測データの解析と、大気モデルの構築・改良を通じて理解しようとしている。今年度は、観測データの整備と大気モデルの構築・改造を進める計画としていた。 「あかり」は2010年2月より観測を停止しており、新しいデータは得られていないが、データ処理ソフトウェアの改良に応じてこれまで得られたデータを再処理し、質の向上を図った。 「あかり」の液体ヘリウム冷却期間である2007年8月までに得られた6天体の観測データを、研究協力者である東京大学名誉教授辻隆氏の作成した褐色矮星大気モデルUCMを用いて解析し、「あかり」波長域での褐色矮星スペクトルの特徴とそれから得られる各天体の特性を考察した。これまで主に2μm以下の短波長での評価を元に開発されてきたUCMが、世界で初めて「あかり」で得られた2.5~5.0μmの連続したスペクトルもおおむねよく説明できることがわかった。一方、大気構造を理解する上で鍵になると考えていたCO, CO_2の吸収バンドについて、特に低温の褐色矮星では観測された強度をモデルで充分に再現できず、現在の我々の大気構造の理解が完全でないことも明らかになった。以上の初期的成果を、2010年10月発行のThe Astrophysical Journalにて発表した。その後も解析を続け、CO_2のバンド強度についてはUCMの金属量をパラメータとするモデルの改良により説明できるのではないかという仮説を提唱する論文を作成し、同じくThe Astrophysical Journal誌に掲載予定(来年度)である。 これと平行して、研究協力者の東大大学院生の空華智子氏により、CH_4バンドを手がかりに大気構造を理解しようとする解析が進められており、初期的成果を国際研究会にて発表した。
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