本研究の目的は、加速器実験と宇宙論的観測の結果を総合的に考慮しつつ暗黒物質の正体や起源、さらには素粒子標準模型を超える物理の性質について、新たな知見を得ることにある。特に、様々な実験・観測から得られると期待される結果・データを用い、素粒子標準模型を超える物理の姿を探るとともに、宇宙暗黒物質の性質に対して素粒子物理学的観点からの理解することを目標とする。以上の観点から、平成22年度は以下の二つのテーマについて研究を行った。 第一には、宇宙背景放射や宇宙初期ビッグバン元素合成からの、暗黒物質粒子の対消滅断面積に対しての制限の導出である。特に近年のPAMELA実験は、高エネルギー宇宙線中の陽電子の過剰フラックスを指摘した。(PAMELAアノマリー。)大きな速度依存性を暗黒物質の対消滅断面積が持てばPAMELAアノマリーが説明され得るという指摘がなされてきたが、そのようなシナリオは宇宙背景放射や宇宙初期ビッグバン元素合成から厳しい制限を受ける。本研究においてはこれらの制限を定量的に求め、様々な速度依存性に対して宇宙論からどのような制限が導かれるかを明らかにした。 第二には、超寿命スタウが存在する場合の、LHC実験における超対称イベントの再構成法の提唱である。超寿命スタウが存在すると、そのトラック情報が使用可能となるため、超対称イベントの再構成が極めて容易となる。本研究では、特にスタウトラックの情報を用いて様々な超対称粒子の質量スペクトルやスピン情報を得る手法を開発した。そしてモンテカルロシミュレーションにより、本研究の提唱した手法によりどの程度の精度で質量やスピンを測定できるかを明らかにした。この結果は超対称暗黒物質の物理の研究の基礎となるものである。
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