AMS-02実験が発見した高エネルギー宇宙線中の陽電子フラックスの過剰現象について、宇宙線陽電子の起源についての研究を行った。不安定なグラビティーノが暗黒物質である模型においては、暗黒物質崩壊から高エネルギー宇宙線陽電子が生成される。本研究においては、AMS-02実験で観測された陽電子フラックスを説明するのに必要な暗黒物質の寿命を定量的に求めた。その結果、現在の宇宙年齢よりも9桁程度大きな寿命を持つグラビティーノが宇宙暗黒物質である場合、AMS-02実験の結果が説明され得ることを明らかにした。この結果は、高エネルギー宇宙線の起源についての新たな知見を与えるものである。 また、素粒子標準模型を超える物理と初期宇宙との関連について研究を行った。特に、初期宇宙における Peccei-Quinn スカラー場の振る舞いについて、詳細な解析を行った。その結果、これまで正しく取り入れられていなかった熱的効果によって、熱的トラッピングや振動の減衰などが起こりえることを明らかにすると共に、Peccei-Quinn スカラー場の発展が大きな変更を受け得ることを指摘した。この結果は、Peccei-Quinn対称性を持つ素粒子模型に基づく宇宙論を行う上での重要な情報を与えるものである。 さらに、インフレーション中に作られた重力波のスペクトルについて、解析を行った。そして、初期宇宙の相転移や暗黒輻射の生成などが起きた場合の重力波のスペクトルを定量的に計算し、それぞれの場合、スペクトルが特徴的な影響を受け得ることを明らかにした。その結果、将来 DECIGO 等の実験によって重力波のスペクトルが詳細に測定されれば宇宙発展についての様々な情報が得られることを指摘した 。ここで得られた結果は、PLANCK 会議において口頭発表を行った。
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