研究実績の概要 |
本年度は本科研費最終年度にあたり、研究を総括する論文を投稿し受理された。またJansson, Farrarによる銀河の規則的磁場を仮定して、銀河宇宙線伝播のシミュレーション実験を行った。下の研究発表論文リストに挙げ、Astronomy & Astrophysicsに掲載された論文では、knee領域より低いエネルギーの宇宙線は超新星残骸中での衝撃波加速に起源を持つと仮定し、伝播を記述するFokker-Planck方程式に等価な連立確率微分方程式の数値解法によって宇宙線の”年齢”と星間空間中の通過物質量の分布のエネルギー依存性を求め、weighted slab modelに基づいてB/C比のエネルギー依存性を計算し、AMS-02による1~500 GeV/nの精密なB/C比観測結果がKraichnanの乱流モデルから予測される運動量依存性を持つ拡散係数で良く再現できるとの結論をまとめた。また本研究で得られた”宇宙線の年齢”は、通常言われるような”銀河からの漏れだし時間”とは異なり、真の意味での、即ち”超新星で生まれた宇宙線が太陽系に到達するまでの時間”であることを指摘し、観測から得られている時間がうまく再現される点も強く展開した。 また、磁場強度依存性を持ちかつ非等方的な、すなわち規則的磁場に平行な方向と垂直な方向とで大きさが異なる拡散係数を取り入れて、確率微分方程式を用いて宇宙線伝播のシミュレーションを試みた。銀河規則磁場としてdivergence freeであることを確かめたJanssonとFarrarのモデルを採用した。物理学会で報告したように、途中経過ではあるが、拡散係数の磁場依存性を考慮しない場合と異なり、B/Cの観測結果を最も良く再現できる拡散係数の運動量依存性のベキ指数は、Kraichnannの乱流モデル、Kolmogorovのモデルから予想される値の中間にあることをつきとめた。
|