研究概要 |
微視的な核子間相互作用に基づき原子核構造の殻構造の全体像を理論的立場から解明すること,またそれを通じて宇宙核物理学に対して基礎データを提供することを目指し,以下の研究を行った。 1.半現実的核子問有効相互作用を用いた球対称平均場計算により,Ca同位体のd3/2及びs1/2陽子空孔状態の準位逆転現象について調べ,テンソル力が重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに,その準位逆転現象と関連して陽子泡構造を持つ可能性が指摘されている46Ar,68Arの密度分布を調べ,対相関等のため明瞭な泡構造が形成されにくいことを確認した。 2.球対称な原子核に対する,ガウス関数展開法を用いた準粒子RPA計算のプログラム開発を行った。 3.Sn同位体のE2遷移確率について半現実的核子問有効相互作用を用いた準粒子RPA計算を実行し,調整パラメータなしに実験データを系統的によく再現できること,また従来の核子間有効相互作用を用いた計算では110Sn周辺でE2遷移確率を大幅に過大評価するが,その原因が殻構造にあり,現実的なテンソル力を用いることによってこの問題が大幅に改善されることを明らかにした。 4.RPA計算を用いて低励起El遷移の性質を調べ,励起エネルギーが高くなるにつれてスキン・モードから陽子・中性子モードへ推移する様子,またスキン・モードに対する殻構造の影響を見た。 5.中性子星の構造と関連して高密度領域での対称エネルギーに関心が持たれているが,高密度での中性子物質のエネルギーについて微視的計算の結果を再現する核子間有効相互作用の開発を進め,そのような相互作用を用いる限り高密度でも対称エネルギーが負となる可能性が低いことを確認した。また,このような相互作用により0同位体の中性子ドリップ線が正しく再現されることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度が最終年度であるので,球形平均場計算による重い不安定核のmagic numberに関する研究を優先し,原子核の殻構造の全体像を把握することに重点を置く。可能な限り速やかに,より信頼性の高い核子間有効相互作用を開発した上で,それを応用して重い不安定核のmagic numberに関する研究を推進する。変形核や励起モードについての計算は,必ずしも包括的な計算に拘らず,本研究の主目的である殻構造との関連で特に興味の持たれる原子核やモードを選んで調べる。
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