(1) アクシオンモデルにおけるスカラー場の宇宙論的進化 素粒子の強い相互作用におけるCP問題を解決するアクシオンモデルにおいて存在するドメイン・ウォールの宇宙論的進化を格子シミュレーションを用いて調べ、ドメイン・ウォール数Nが2以上の場合についてウォールからのアクシオンと重力波放出を定量的に評価した。その結果アクシオン放出がウォールの進化において重要であり、放出されたアクシオンが宇宙の暗黒物質密度を超えてしまい、N>1のモデルはドメイン・ウォールが生成される場合には棄却されることを明らかにした。これはアクシオンモデルを構築する上で重要な制限となる。このドメイン・ウォールの問題はインフレーション中にアクシオンモデルがもつU(1)対称性が自発的に壊れれば回避できるが、この場合アクシオンが大きな等曲率揺らぎを持ち観測と矛盾するという新たな問題が生じる。そこで、インフレーション中にアクシオンを含むスカラー場が大きな期待値を持つモデルに着目し、ドメイン・ウォールと等曲率揺らぎの問題が解決できるかを詳しく調べ、インフレーション・スケールに対する制限を得た。 (2) カーバトンモデルにおける原始ブラックホールの生成 インフレーション中に存在するインフラトン以外の軽い場(カーバトン)が宇宙の密度揺らぎを生成するカーバトンモデルにおいてアクシオン的なポテンシャルを持つカーバトンを考えると、生成される密度揺らぎスペクトルが極端にブルーになりスモール・スケールで大きな密度揺らぎが作られ、その結果、原始ブラックホールが生成される可能性がある。実際、このモデルにおいて暗黒物質を説明するのに十分な原始ブラックホールや巨大ブラックホールの種となる10の5乗太陽質量の原始ブラックホールが生成されることを示した。
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