最近の格子QCDの発展により、QCDに直接基づいた原子核・ハイパー核物理の研究が可能な時代に突入した。本研究では格子QCDを積極的に用いて原子核構造・ハイパー核物理を研究する方法を開拓する。2012年度に稼働する次世代スパコンの仕様を念頭において、格子QCDを用いて核力・ハイペロン力の研究を様々な角度から行う。今年度は、(1)結合チャンネルのハイペロン力を格子QCDから求めるための定式化を進め、国際シンポジウムLATTICE2010で発表した。現在、実際にこの方法を使ってΛΛ-NΞ-ΣΣ結合系の相互作用を格子QCDにより計算中である。(2)LS力やp-waveへの拡張を進めている。数値計算に着手したが、結果を出すにはもう少し時間がかかる。(3)我々の方法により格子QCDを使って核力やハドロン間力を求めた場合、長距離の領域で収束が極めて遅くなる現象が問題となっていた。数MeV程度の違いではあるが体積を伴って寄与するので、低エネルギーの物理(散乱長や束縛状態の有無)に大きな悪影響を与える。この現象は、体積が大きくなるに伴って状態間のエネルギーギャップが縮まってくると、どんどん深刻になることが予想される。このため、次世代スパコンによる現実的核力生成以前にどうしても解決法を見つけておく必要があった。最大の原因は、Bethe-Salpeter(BS)波動関数のsingle state saturationの精度を上げることが困難である事であったので、single state saturationに頼らないでもよい方法を提案した。空間相関と時間相関両方用いることで、BS波動関数の時間発展から直接核力ポテンシャルを計算することでこれが可能になる。この方法によりEuclid時間に関する収束性は著しく改善される。
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