今年度論文として公表した研究成果の概要は以下の通りである. 1)対称性を持った系に対して厳密くりこみ群を応用するときには、対称性を表すWT恒等式とくりこみ群のフローの式の二つが重要である.最初の論文では、WT恒等式の解の性質を、実際にWT恒等式を解くことによって検討した.今回、具体的に調べたのは、カイラル対称性を持っている系である.厳密くりこみ群を応用する際には、必ず運動量切断が導入され、それが系の持っている対称性と相容れないことが一般的に良く起こる.ここでは、このような状況のもとでWT恒等式を書き下し、作用がフェルミオンについては高々2次であることを仮定して、WT恒等式を満たす作用を求めた.この構成は非摂動的なものになっている. 2)二つ目の論文では、アノマリーの存在が期待される系において、それが具体的にどう現れるのかを明らかにした.対称性を持つ系においてはWT恒等式が書かれる.我々の用いている反場形式では、WT恒等式は量子マスター方程式の中に組み込まれている.量子マスター方程式は、理論の定式化で導入された運動量切断を有限に保ったまま書かれている.アノマリーの期待される系では、量子マスター方程式は破れ、おつりとしてアノマリー複合演算子が加わっていることを示した.アノマリーの満たすWess-Zumino条件と、反場形式の持つ代数的構造との関係も議論した.運動量切断をゼロに近づけると、ここで議論したアノマリー複合演算子は簡単な形を持つと期待される.この点の理解が不十分なまま残っている.
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