微視的数値計算の一つである反対称化分子動力学法を用いて原子核の構造の理論研究を行った。主に軽い安定原子核および不安定原子核の基底・励起状態の構造を調べ、クラスター構造の解明を行った。He同位体においては、αクラスター芯が形成されその周りに余剰中性子が束縛された構造が出現する。2つの余剰中性子がスピンゼロの対を形成したダイニュートロン相関を調べるために、得られた波動関数における2体密度を計算し、空間的に強い相関をもつ2中性子対(ダイニュートロン)が核表面に見られるかどうか調べた。B同位体およびC同位体おいては3つのクラスター芯をもつ分子的な励起状態が現れる可能性を理論的に示唆した。また、反対称化分子動力学法を応用して160-160や160-200などの酸素同位体の間のポテンシャルを求め、核融合断面積の評価を行った。さらに巨視的微視的模型によって28Siおよび32Sの変形構造を調べ、28Siの通常変形と32Sの超変形構造がそれぞれ12C+160および160+160の2体クラスター共鳴のチャネルに繋がることを確認した。28Siについては基底回転体の偏平(oblate)構造において7αクラスター構造に起因した5角形構造について、軸対称性の自発的対称性の破れとして理解できることを明らかにした。すなわち、oblate変形した内部構造において縁部分の核表面に静的なDensitywave(密度波)が生じることによって軸対称性の自発的破れがひきおこされる。密度波による軸対称性の自発的破れ(Spontaneous symmetry breaking : SSB)という見方に立つと、SSBが最も起こりやすいのは陽子数と中性子数の数が同じZ=N原子核におけるcoherentな密度波の場合である。逆に、Z≠N核ではSSBが生じにくく、その性質が基底状態におけるクラスター減衰の1要因であると解釈することができる。
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