研究課題/領域番号 |
22540276
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
植松 恒夫 京都大学, 理学研究科, 教授 (80093194)
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キーワード | 素粒子論 / 量子色力学 / 摂動論 / 超対称QCD / DGLAP発展方程式 / スクォーク / グルイノ / 光子構造関数 |
研究概要 |
本研究計画では素粒子の強い相互作用に対する量子色力学(QCD)の摂動論的アプローチを用いて、欧州合同原子核研究所(CERN)のラージ・ハドロンコライダー(LHC)や、近い将来に建設が計画されている国際リニアコライダー(ILC)等の先端加速器で到達されるエネルギー・フロンティアでの標準模型および標準模型を超える物理を研究することを目的とする。当該研究計画の第2年度である平成23年度は、超対称QCDの場合にクォークやグルーオン以外に、質量の大きな超対称性粒子であるスクォークやグルイノが存在する場合の光子構造関数の研究を遂行した。摂動論的QCDの研究の最近の傾向としてチャームやボトムクォークなどの重いクォークの質量の効果を取り込むための様々な試みが追求されているが、決定的な手法は確立されていない。さらに、核子の構造関数ではQCDを理論として適用するにしても、非摂動論的効果が常に伴う。筆者らは、ここ数年電子・陽電子衝突実験で測定される光子構造関数について、重いパートンの効果を摂動論の枠内で研究してきた。特に標的の光子がoff-shellとなる仮想光子の場合で、その質量がQCDのスケール・パラメータに比べて十分大きく、また探索光子の質量よりも十分小さい運動学的領域では、構造関数やパートン分布関数は摂動論で大きさも形も計算可能である。実際クォークの質量をゼロとした扱いでは、仮想光子構造関数はQCDのNNLOの精度まで我々のグループによって計算されている。このように従来は質量をゼロとして求めた構造関数の計算を改良するべく重いクォークの質量効果を取り入れる研究を行った。これは、核子のPDFの研究にも大いにフィードバックが期待される。このような観点から、演算子積展開(OPE)で質量効果を取り込む、我々の最初の手法を、PDFに対するDGLAPの発展方程式に境界条件を設定することで質量効果を取り入れる手法へと拡張した。この定式化を用いて、超対称性粒子であるスクォークやグルイノが存在する場合の光子構造関数を求めた。将来の電子・陽電子線形加速器ILCでの実験でこのような理論的計算を検証することが期待される。研究成果は昨年9月にインドで開催された輻射補正に関するシンポジウムRADCOR2011と、10月にドイツ・ベルリンのDESYで開催された日独ワークショップで発表した。また、共同研究者より、2011年秋および2012年春の日本物理学会で研究成果の報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パートン分布に重粒子の効果を取り入れる試みは、海外のいくつかのグループで研究されているが、決定的な手法は確立されていない。今年度は標準模型を超える超対称性理論、特に超対称QCDについて、摂動論の2つの方向からこの質量効果を求めた。一つはファインマン・グラフの1ループの計算でその虚数部分をとることで、スクォークの寄与を8つの仮想光子構造関数について全て計算した。また境界条件を適切に設定したDGLAP発展方程式を解いて、輻射補正まで含めた光子構造関数を求めた。これらは将来のエネルギー・フロンティアの加速器で検証可能で研究目的の一つが達成されたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、実験的研究が進められている、欧州合同原子核研究所(CERN)のラージ・ハドロンコライダー(LHC)でのヒッグス粒子や超対称粒子の探索にパートン分布関数の正確な評価が重要な意味を持っていることは、良く知られている。特に、重粒子の質量効果を取り入れた、'パートン分布の解析をハドロン・コライダーについても、これまでの研究成果をもとに、進めて行きたいと考えている。特に、QCDだけではなく超対称性を取り入れた理論でのより精度の高い解析を遂行し、エネルギー・フロンティアでの物理を探究する理論的枠組みの構築を目標としたい。
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