本研究の目的は宇宙の物質生成の機構の有力な候補であるレプトジェネシスを非平衡の場の理論を用いて研究することにある。平成22年度の研究では非平衡系の時間発展を扱う量子ボルツマン方程式の研究を行った。粒子、反粒子の自由度を含むような2次元調和振動子の系を粒子数非保存現象の観点から研究した。 温度Tと化学ポテンシャルμが決まった初期密度行列から出発し、粒子数の期待値の時間発展を正準量子化と経路積分法の両方で計算した。その結果に基づいて、粒子数非保存の相互作用を導入することで粒子数の期待値がどのように時間変化するかを計算した。 研究した量子力学系は場の量子論では、複素スカラー場の理論にスカラー場の自乗で表される、場の位相変換に対して不変でない質量項を加えた模型に対応する。このような質量項はニュートリノのマヨラナ質量項に類似した相互作用である。この項があると粒子反粒子混合がおき、粒子数は保存しなくなる。本研究では初期状態が統計的な密度行列で与えられている場合を想定し、期待値としての平均粒子数がどのように変化するかを導出した。その結果、平均粒子数は粒子数を破る項を大きくすると短い周期で振動することが分かった。さらに振動の周期より十分長い時間で時間平均した粒子数期待値を求めると粒子数の破れが大きくなるとともに時間平均した粒子数期待値の大きさが減少する様子が明らかになった。 本研究で厳密に解ける模型を考察することにより、バリオン数やレプトン数が初期宇宙等で生成された後、対応する粒子数を破る相互作用がある場合、それらがどのように減衰するかが明らかになった。また、化学ポテンシャルがある場合、密度行列の座標表示での表現を求めることができた。 今後の展開として、現在研究している量子力学的な模型を場の量子論に拡張するとともに、初期粒子数を生成するメカニズムも含んだより現実的な模型の研究に進める計画である。
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