本研究では、原子核のエキゾチック変形状態、特に正四面体変形した状態に着目し、そのような特異な変形状態が基底状態近傍に現れるのか否か、また、現れるとするとどのように現れるかを明らかにする研究を行なってきた。特に、原子核の正四面体状態を実験的に同定するために不可欠な回転スペクトルを理論的に分析し、比較的高スピン状態まで計算を進めることによって、スペクトルの特徴を明確な形で示すことができたことは大きな成果である。 正四面体変形状態は通常の原子核の変形状態が持っている対称性をすべて壊した平均場を持っており、最初の二年間で最も一般的な平均場状態からの量子数射影を行なう計算プログラムを開発し、昨年度世界で始めて正四面体変形した状態のスペクトルの微視的立場からの計算に成功した。本年度は更に計算手法を改善することにより、偶々核だけでなく、奇核や奇々核におけるスペクトルを計算し、その特徴を明らかにした。また、昨年度までは比較的簡単な相互作用を用いてスペクトル計算を行なってきたが、本年度はより現実的なGogny型相互作用を用いた計算に成功し、より精度の高い理論的な予言を行なうことができた。 角運動量射影を含む量子数射影計算では膨大な計算時間がかかるが、4年間の研究期間の間にマルチコア計算機を全部で3台導入することができたので、飛躍的に計算効率を高めることに成功した。これによって、正四面体変形状態の研究だけでなく量子数射影計算の別の応用として、高スピン状態でのその他のエキゾチックな回転状態についても理論的分析を行うことが可能になり、また、陽子数と中性子数の大きく異なった不安定核の回転状態や反応断面積の研究をも遂行することができた。これらの種々の興味深い結果は本年度秋にポーランドで開催された国際会議にて発表し高い評価を得た。
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