今年度も昨年度に引き続き2核子のS波での散乱の核子系有効場理論に基づく位相のずれの計算を行なった。我々のアプローチはウィルソン流の繰り込み群の解析に基づく次数勘定があり、その解析に忠実に従うために「ハイブリッド正則化」というべき計算方法に従って計算をする必要がある。しかし、この方法がどのように定義されなければならないか、も含めていわば trials and errors を繰り返す必要があった。その研究の過程を経て、ほぼ「ハイブリッド正則化」がどのように行なわれなければならないかが明かになった。この方法に従うと、有効場理論としての破綻は生じない。実験値とフィットした低エネルギー係数は自然な大きさを持つことがわかり、また計算の次数を上げていったときに大きくその値が変化しないことも示される。これらは我々の次数勘定の正しさによるものだと考えられる。この研究結果は、過去10年以上にわたる学会の「常識」を覆すものである。 もう一つの研究として、3粒子系の補助場を用いない繰り込み群の定式化とその解析を行なった。3粒子系は、極低温まで冷却された原子系でのエフィモフ効果の観測など、実験的にも注目されている。従来の研究では、常に2粒子の伝播を表す dimeron とか dimer と呼ばれる補助場を導入して議論されていたが、我々はこのような場を導入することなく、エフィモフ効果に関係する繰り込み群のリミットサイクルがどのように現れるかを研究した。非常に非自明なことに、非相対論的理論では、非摂動論的繰り込み群方程式が 1-ループの寄与のみによるのではなく、無限個のダイアグラムが寄与することを示した。先行研究の誤りを正すとともに、今まで知られていない繰り込み群の非自明固定点を発見した。
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