研究課題/領域番号 |
22540288
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
河野 通郎 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (40234710)
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キーワード | 中性子星物質 / バリオン間相互作用 / Λ・Σ・Ξハイペロン / 結合クラスター法 / 多体相関 / 飽和性 / 2体化3体力 / ^4He |
研究概要 |
広範囲のバリオン密度領域にわたる中性子星物質として実現されるバリオン多体系の存在様式・バリオン組成を探求するためには、核物質における3体力と多体相関の寄与を定量的に理解することが基本的に重要である。核子間相互作用の性質と多体相関そして3体力の関係を明らかにするために開始した、^4Heを対象とする結合クラスター計算を今年度達成することができた。この計算結果自身は先行研究があるが、多体相関平均場を系統的に導入する結合クラスター法は他のグループのものとは異なり、多くの項を系統的に集める見通しの良い方法であり、様々な相関の物理的内容を理解するのに有用である。また、より重い原子核への適用に際してもその簡潔さが利点となる。 3体力については、そのまま3体力として扱うことは計算が非常に複雑なため、一つの自由度を平均化して2体力化した上で3体力の寄与を考察する手法を採用した。具体的には、2体力と3体力が系統的にパラメーター化されるカイラル有効理論を用い、まず核物質中で2体化したうえで部分波展開を行い、2体力に加えて多体計算を行った。対称核物質での予備計算で定量的に望ましい結果が得られることが分かり、引き続き中性子星物質へ適用する基礎を築くことができた。また副産物として、原子核の殻構造を記述するのに基本的に重要なスピン軌道力の強さが、2体核力だけでは実験を再現するのに不足するという未解決問題が、3体力の寄与を入れれば解決することを核物質計算で定量的に明らかにすることができた。原子核多体系の微視的理解にとって重要な進展と考えられる。これらの成果を発表するいくつかの論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
散乱を記述するバリオン間相互作用から出発して中性子星物質を考える出発点として、核子多体系の基本的性質である飽和性を核子間相互作用から出発して多体相関と3体力の役割を考慮して定量的に理解するという課題は、この2年間の研究でその目的がほぼ達成できた。すなわち、多体平均場を導入する結合クラスター法を用いて^4Heで具体的に数値起算を行い多体相関の役割を明らかにすることができた。また、3体力の効果を3体力を2体化した上で核物質計算を行うことにより評価し、核子多体系の示す飽和性の理解を大きく進展させることができた。これを基盤として、Λ・Σ・Ξハイペロンの中性子星物質内での役割について、それらの一粒子ポテンシャルを通して考察することが次の課題である。次の12.の項目で述べるように、申請段階でははっきりしていなかった中性子星の最大質量の実験的観測の進展に対応して、Λハイペロンが関係する3体力の寄与の研究を加える。
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今後の研究の推進方策 |
ここ数年で中性子星の観測が進み、予想外に大きな質量をもつ中性子星が発見され、従来考えられていた中性子星のバリオン組成は大幅に見直さなければならない状況になっている。バリオン間相互作用に基礎を置いた微視的計算による理解の重要性が増したと思われる。散乱データーに基づく現実的なバリオン間相互作用を用いた私の計算では、ΣとΞについては正しく対応した結果を予測すると考えられるが、Λについては斥力効果が必要であろう。本研究課題で、核子間の3体力の寄与を扱ったが、対応した3体力をΛハイペロンについても考えることが必須になった。この方向での研究を今後の研究課題に加える。Λハイペロンの関わる3体力の寄与を定量的に評価することはこれまでほとんどなされていない課題であり、高密度領域のバリオン多体系の性質をバリオン間相互作用に基づいて微視的に理解する研究の中で重要な位置を占める。
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