ここ数年で中性子星の観測が進み、予想外に大きな質量をもつ中性子星が発見され、従来考えられていた中性子星のバリオン組成は大幅に見直さなければならない状況になった。バリオン間相互作用に基礎を置いた微視的計算による理解の重要性が増したと考えることができる。中性子物質内でのハイペロンのポテンシャルエネルギーについて、従来のものに比べ信頼性・予測性が高いと考えられるバリオン間相互作用を用いて行った私の計算では、Σ粒子は非常に強い斥力的効果を受け、Ξ粒子のポテンシャルも斥力的になり、高密度の中性子星物質においてはそれらのハイペロンは析出しないことが十分予測される。Λ粒子については、現実にΛ粒子が原子核に束縛されるハイパー核が存在することの延長上で、高密度中性子物質内でΛ粒子が現れるほうがエネルギー的に有利である。Λ粒子と核子の間の2体力のみを用いた私の計算でも当然そのような結果が得られる。前年度までの本研究課題で、核子間の3体力が核子多体系の基本的性質を理解する上で基本的に重要な役割を果たすことを定量的に明らかにしたが、対応した3体力をΛハイペロンについても考えることが重要であることが予想される。そこで、核子系の場合の3体力がアイソバーΔ励起を経由するものであるという描像を基に、SU3対称性の観点に基づいて対応するオクテットバリオン励起過程をΛ粒子の場合にも考え、その寄与を評価した。すなわち、Σ*ハイペロンが励起される過程を2次の摂動で評価して、核子の場合と同程度の斥力的寄与が現れることを確かめた。上記の大きな質量をもつ中性子星について、Λ粒子に現象論的な斥力を導入して存在の可能性を説明する研究が多く行われているが、その斥力的効果の根拠を微視的観点から明らかにすることができたことになる。
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