研究課題/領域番号 |
22540290
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊夫 日本大学, 文理学部, 教授 (70139070)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 殻模型 / ニュートリノ / 電子捕獲 / ガモフ・テラー遷移 / r‐プロセス / 第一禁止遷移 / 元素合成 / ベータ崩壊 |
研究概要 |
新しい殻模型ハミルトニアンを用いて、元素合成過程に重要な影響を及ぼす原子核での弱過程-ニュートリノ核反応、電子捕獲反応、ベータ崩壊-のより正確な評価を行った。 (1)テンソル力の効果を正しく取り入れた新しいハミルトニアンを用いて 13C のガモフ・テラー遷移強度の再評価と、ニュートリノ‐13C 反応の断面積の評価の改良を行った。この成果は、低エネルギーニュートリノのより正確な測定につながり、ニュートリノ振動等のニュートリノの性質を明らかにする研究の発展に寄与する。 (2)我々のグループが開発したモノポール項に基礎を置く殻進化を正しく記述する普遍的な相互作用に基づき、新しい殻模型ハミルトニアンを構築し、(1)p-sd 殻核の構造とスピン応答を良く記述できることを明らかにした; (2) sd-pf 殻核、特にニュートリノ散乱の標的として広く使用される40Ar のガモフ・テラー(GT)遷移分布の実験値を良く再現できた。この GT 遷移強度を用いて、ニュートリノ-40Ar 反応の新しい断面積を求めた。 (3)昨年度の Ni 同位体の研究を拡張し、fp殻核の新しいハミルトニアン、GXPF1J、を用いてfp殻核の GT 遷移と高密度、高温の天体条件下での電子捕獲反応の系統的な研究を行い、従来より正確な捕獲率を得た。電子捕獲率の精密な評価が超新星爆発時の元素合成に及ぼす影響を調べている。 (4)質量数 70‐100領域の不安定核のベータ崩壊の従来の理論の評価より短い半減期が、r-過程による元素合成過程へ及ぼす影響について調べた。R-過程元素合成の第二と第三の山の間隙を埋める働きがあるが、観測値を再現するほど効果は大きくはなかった。 (5)fp殻核における3体力核力の効果を調べ、カルシウム同位体のエネルギー、2+ 状態の励起エネルギー、48CaのM1遷移における3体力の重要性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
核力のテンソル力の効果を正しく取り入れた新しいハミルトニアン、 特に我々のグループが開発したモノポール項に基礎を置く殻進化を正しく記述する普遍的な相互作用の有効性を、(1)p-sd 殻核の構造とスピンモードの系統的な記述、(2) sd-pf 殻核、特にニュートリノ散乱の標的として広く使われる40Ar のガモフ・テラー(GT)遷移分布の記述において、具体的に示すことができたのは大きな成果である。新しい信頼性のおけるニュートリノ‐40Ar反応断面積が得られたことは、今後のニュートリノ物理学、超新星、天体核物理の研究の発展に重要である。 fp殻核の新しいハミルトニアン、GXPF1J、の有効性が56Ni、55CoのGT遷移分布の測定によって示されたことで、高密度、高温の天体条件下でのfp‐殻核の電子捕獲反応の精密な捕獲率の評価が可能になったことは大きな成果である。電子捕獲率の精密な評価は超新星爆発時の元素合成過程を研究する上で重要である。 世界に先駆けて、不安定核のベータ崩壊の半減期が多くの核で従来の理論に比べて短いこと、GT遷移だけでなく第一禁止遷移の寄与も重要であることを示せたのは重要な成果である。今後のr-過程による元素合成の研究の発展に寄与するところは大きい。 得られた研究成果を、数回の国際会議、国際シンポシウム、ワークショップで発表し、論文にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ニュートリノ‐13C 反応、ニュートリノ- 40Ar 反応の反応断面積の評価の改良を行ったが、他のより多くの原子核においても正確なニュートリノ反応断面積の評価を行うとともに、ガンマ線、粒子放出チャネル等への分岐比の評価も行い、ニュートリノの測定、星の中でのニュートリノ過程による元素合成の研究の発展に寄与する。 電子捕獲率の精密な評価が可能になったので、中性子過剰核、陽子過剰核を含むより広範囲の原子核において系統的な捕獲率の計算を行い、超新星爆発時の元素合成等の天体での影響を調べる基礎を提供し、核力と核構造の最近の成果を天体核物理、星の進化の研究に反映させる。星の進化、元素合成計算の専門家と協力して、核物理の精密計算の成果を種々の天体現象に応用する予定である。 テンソル力の重要性を、新しいハミルトニアンを構築しp-sd殻、sd-pf殻核に応用することで示すことができた。また、三体力の重要性をカルシウム同位体の構造の研究で示すことができた。今後もテンソル力、スピン‐軌道力、三体力を含む核力の研究を継続して行う。
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