研究概要 |
本研究課題の目的は,外界(環境系)との相互作用下にある注目量子系の物理を,これまで不問に付されてきた感のある環境系のダイナミクスや量子系のコヒーレンスやエンタングルメントといった量子論的特徴の振る舞いを通して解析し,いわゆる開いた量子系の理解を格段に進めることにある.具体的には以下のような課題に取り組んだ. ・環境系の特徴付けとマスター方程式の再吟味:非自明で最も簡単な模型と思わる位相相互作用型スピン(量子系)-ボソン(環境系)系を取り上げ,その全体系のダイナミクスを厳密に導出した.この結果からは量子系に対する縮約された力学だけでなく環境系に対する力学を導出することが可能であり,環境系としてふさわしい振る舞いが実際に再現されているのかどうかの検証が可能である.また,よく用いられるマルコフ近似のLindblad型マスター方程式と比較し,マスター方程式を導出する過程で用いた条件や仮定の有効性やその有効範囲,あるいは(非)マルコフ性といった概念の精緻化を環境ボソン系のダイナミクスも考慮に入れたうえで明らかにする. ・有限媒質環境下での場の量子論と量子力学:有限の媒質中などの境界条件(あるいは漸近条件)のもとでは場の量子論で前提とされていた粒子描像が成り立たないことが起こり得る.このような状況のモデルハミルトニアンとしてトンネル現象で用いられるトンネルハミルトニアンを例にとり,境界条件あるいは漸近条件と粒子描像の再検討を,特に演算子の自己共役性という観点から行った. ・散逸環境下での量子状態操作:リウヴィル超演算子のスペクトルの解明という観点から散逸ダイナミクスを明らかにするとともに,従来提案されていた量子状態操作の散逸環境下での有効性を吟味したほか,関連する話題に関して引き続き研究を進めた.
|