研究課題/領域番号 |
22540292
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中里 弘道 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00180266)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子力学基礎 / 量子ダイナミクス / 量子状態 / 国際研究者交流(イタリア) |
研究概要 |
本研究課題では,外界(環境系)との相互作用下にある注目量子系の物理を,これまで不問に付されてきた感のある環境系のダイナミクスや量子系のコヒーレンスやエンタングルメントといった量子論的特徴の振る舞いを通して解析し,開いた量子系の理解を深化させることにある.今年度は以下のような課題に取り組んだ. ・位相相互作用型スピン(量子系)-ボソン(環境)系の厳密解から環境系に対する力学の再吟味に着手しており,マルコフ・非マルコフ性の特徴付けや環境系の緩和時間に関して興味深い結果が得られるものと期待している.また,回転波近似のもとでの準位間遷移型相互作用をする場合のダイナミクスを,全ハミルトニアンの固有値と固有状態を求めるという観点から試みた.基底状態(真空)と第一励起状態のスペクトラムは既知ではあるが,今回,それらの固有状態の完全性(の一部)を示した. ・量子系は,純粋度やフォンノイマンエントロピーなど,1体の物理量の期待値として表現するのが難しい量で特徴付けられるが,これらの量を量子状態のトモグラフィーに依らず求めることは重要かつ非自明な課題である.昨年提案した純粋度を制御ゲートを用いることなく求める手法をさらに発展させ,今回,量子状態を表す密度行列の固有値を最も簡易な手続きのもとで求める手法を提案した.この手法では多重に用意した量子状態間の置換対称性が重要な役割を担っており,その実行可能性は量子系の次元の偶奇性によることを明らかにした. ・量子系の断熱過程で現れる非可換位相が量子ゼノンダイナミクスを通して得られることを明らかにした.量子ゼノンダイナミクスは頻繁な測定の繰り返しの他,連続的で強い制御相互作用の印加等でも実現可能,というように実現に向けての自由度が高く,また実現時間の短縮も期待されている. ・可解な2準位量子系のモデルを新たに提案し,様々な物理過程での応用を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境系のもとでの量子系のダイナミクスという観点では,既に解析が進行中であり初期の成果も出ている.その一方でマルコフ・非マルコフ性の解析の多くはこれからの研究に委ねられており,やや遅れている感は否めない.しかしながら,関連事項に関しては共同研究が当初の見込み以上に進展して成果が出ており,全体としては順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き現在の研究を進展させる.特に遅れていると感じている部分(マルコフ・非マルコフ性の解析)に力を注ぎ,成果を得たい.国際共同研究に関してはこれまで通り,イタリアの研究者を中心に,密接な連携を図りながら着実に推進してゆく.
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