研究概要 |
稼動を開始した大強度陽子加速器施設(J-PARC)によって,ハイペロンを含んだ原子核(ハイパー核)の存在様式やこれを構成するバリオン粒子(ハイペロン-核子、ハイペロン-ハイペロン)間の相互作用が解明されると期待されている。本研究では,歪曲波インパルス近似と多配位チャネルに拡張されたグリーン関数法を活用して,(π^-,K^+)や(K^-,K^+)の2重荷電交換反応によって生成される中性子過剰ハイパー核の生成反応スペクトルの理論計算を行った。ハイペロンは中性子星の中心部でも出現すると考えられており,中性子星などの構造や高密度核物質の性質を明らかにする手掛かりが得られる可能性がある。^<16>Oを標的核にした(K^-,K^+)反応によるΞ-ΛΛハイパー核の反応計算では,ΞN-ΛΛ結合をあらわに考慮して,ΛΛ核の束縛状態からΞ^-核の連続状態までの領域のスペクトルを求めた。予想される大きさのΞN-ΛΛ結合ポテンシャルを仮定した場合,^<16>_<ΛΛ>Cの励起状態J^π=1^-,2^+はΛΛハイパー核内部でΞ^-粒子の成分が大きく混合する(5~10%)ため,K^-p→K+Ξ^-の1段階過程によって核内Ξ-成分を直接励起してΞ^-p→ΛΛ結合から生成することができる。その結果,生成断面積は約10nb/srになり,これまでの実験データとも矛盾しない。ΞN-ΛΛ結合の大きさは現存するモデルに強く依存するため,この理論スペクトルと実験結果の比較によってΞ^-ポテンシャルとΞN-ΛΛ結合の貴重な情報が得られると期待できる。一方,K^-p→π^0Λ,π^0p→K^+Λの2段階反応によるΛΛ生成についてグラウバー近似の範囲で評価すると,1段階過程により1オーダー小さい生成断面積になることが分かった。また(π^-,K^+)反応による中性子過剰核の生成スペクトルにおいて,^<10>_ΛLiなどのΛハイパー核に現れるシグマ混合や生成断面積を正確に求めるためには,模型空間に適した有効ΛN-ΣN相互作用を用いることが重要であるため,その計算手法を検討した。
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