研究課題/領域番号 |
22540296
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研究機関 | 沼津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
住吉 光介 沼津工業高等専門学校, 教養科, 教授 (30280720)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 理論核物理 / 理論天文学 / ニュートリノ / 輻射輸送 / ボルツマン方程式 / 計算科学 / 流体力学 / 核データ |
研究概要 |
大質量星(太陽質量の10倍以上)の進化の最期におこる重力崩壊は、中心コアのバウンスを経て華々しい超新星爆発を起こすと考えられている。爆発か否かを結論づける上での最大の課題はニュートリノ輻射輸送にある。超新星の中心コアではニュートリノが本質的な役割を果たしているが、これまでの研究では、ニュートリノ輻射輸送の計算が球対称あるいは近似のもとでのみ行われてきており、爆発メカニズムを明確に捉えることができなかった。この現状を打破して、ニュートリノ輻射輸送計算を空間3次元で実行可能にすることで、爆発ダイナミクスにおける多次元ニュートリノ輻射輸送の役割を明確にして、超新星爆発の謎にせまる。 平成25年度は、3次元超新星コアのプロファイルにおけるニュートリノ輻射を系統的に調べて、多次元におけるニュートリノ輻射輸送の特徴を明らかにした。並列計算法により大計算規模・効率化した6次元ボルツマン方程式計算コードにより、爆発後の代表的なスナップショットについてニュートリノ輻射定常解を求めて、ニュートリノの空間・エネルギー・角度空間全ての分布および反応・加熱率の空間分布を解明した。Ray-by-ray法による近似計算手法との比較を行い、近年の多次元計算で頻繁に用いられているRay-by-ray法は動径方向のみを扱うため、ニュートリノ分布や加熱率において方向変動を強調しすぎることを、世界で初めて3次元空間のもとで示した。 また、基礎開発を終えたニュートリノ輻射流体計算コード(6次元ボルツマン方程式+流体力学)の適用を進めて、コアバウンス後の定常降着衝撃波に対する不安定性(SASI)を記述することに成功した。相対論的な効果を含んだ統合コードも完成して、重力崩壊からコアバウンスへ至る現象を追うことが可能となった。これにより超新星爆発の各ステージでの多次元ダイナミクス計算への道筋が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
6次元ボルツマン計算コードと流体計算コードの統合は完了したが、本格的な長時間大規模計算を開始するには至らなかった点はやや遅れている。ただし、輻射輸送に着目した研究成果は順調に得られた。また、爆発シナリオ中の一部を取り出した時間発展計算を行う事ができた点は快挙である。 具体的には、コアバウンス後に起きる定常降着衝撃波の不安定性について2次元(軸対称)での数値シミュレーションを行い、流体不安定性が発生して時間発展する様子を記述して、先行研究の結果と合致した結果を得ることができた。昨年度より取り組んでいる相対論効果の取り扱いは、当初予想よりも難しく、計算コードに組み込むのに時間を要したが、結果として新たな計算方法を生み出すことに成功して、球対称における重力崩壊やコアバウンスなどの状況での基本的なテスト計算を行う事ができた。今後は、長時間計算や多次元における応用テストを本格的に行うこととなる。 一方、6次元ボルツマン計算コードによる3次元超新星コアの研究については、大規模計算を順調に進めることができた。計算結果の大規模6次元データの解析や物理解釈には月日を要したが、年度末までに論文を投稿することができた。Ray-by-ray近似計算との比較は、超新星研究の業界に非常に有益な情報をもたらした。 並行して、数値シミュレーション実行に必要な状態方程式データテーブルの整備と、状態方程式の超新星現象への影響について研究を行った。特に、原子核混合組成の系統的な構築、軽い原子核の出現とニュートリノ加熱への影響、クォーク・ハドロン相転移の影響、核子多体理論による核物質状態方程式の影響などの研究を行い、本格的な大規模計算へ向けた基礎研究を行った。
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今後の研究の推進方策 |
ボルツマン計算と流体計算の統合コードについては、基本開発が終わり、いよいよ超新星への応用段階へ入った。この統合コードは並列化やチューニングを行う必要があるが、主な計算負荷となるボルツマン計算の部分は並列化とチューニングが完了しており、基本的な問題はないと考えられる。並列化作業や実行可能な計算資源に依存するが段階的に大規模化を実施して、軸対称での衝撃波復活へ至るダイナミクスの探索、軸対称における重力崩壊からコアバウンス・衝撃波伝搬への長時間発展での爆発探索を行っていく計画である。これらの開発は若手研究者や計算科学研究者との共同で行っており人的な体制は整っている。ただし、新しい計算コードによる数値シミュレーションでは、長時間発展の途中で問題点などが発生する場合もあり、重力崩壊から爆発までの一貫したメカニズム探索にはなお時間を要することが予想される。比較的小規模であるバウンス後のダイナミクスに着目した系統計算を先行させ、多次元ボルツマン計算の影響を明らかにする見込みである。また、京コンピュータなどの超大規模計算へ拡張を行い、爆発シナリオの一部分において、3次元空間の問題を扱うことも目指したい。
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