研究概要 |
本年度の格子量子色力学研究の進展の一つは、アップ、ダウン、ストレンジクォークからくる真空偏極の効果を取り入れた格子カイラルクォークを用い、二つの格子間隔(a=0.09,0.11 fm)でのシミュレーションを行うことによって、はじめて格子間隔が0の連続理論への外挿をとれるようになったことである。これによりシミュレーションで格子間隔が有限であることによる離散誤差を0(a2)、数パーセントまで押さえることが可能になったことである。 また、カイラル対称性の量子異常により質量を増加させるη'中間子の質量計算、およびηとη'間の混合角度を、誤差がそれぞれ15%,20%とまだ大きくはあるが、はじめて計算することに成功した。さらに、クォークの電荷の効果を取り入れたシミュレーションを行うことによって、中性子、陽子間の質量や、アップ、ダウンクォークの間の質量差など、アイソスピン対称性の破れを第一原理から計算する先駆的な計算を行った。 小林・益川理論と素粒子標準模型の精密検証に重要な役割を果たすB中間子の崩壊および,中性B中間子とその反粒子の間の混合に関する量子遷移振幅(ハドロン行列要素)を求める方法論のチェックを主目的とする論文を書き、現在より自然界に近い条件での計算を進めている。 目下の課題は計算で用いるクォーク質量が自然界のそれらに比べ重すぎることによる系統誤差であるとの観点より、どのようにしたらより軽いクォークの運動方程式を、計算量を抑えながら実行できるかについてのアルゴリズムの開発を、マルチグリッド、ディラック演算子の固有ベクトルなどに注目して行っている。
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