研究課題/領域番号 |
22540302
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
矢崎 紘一 独立行政法人理化学研究所, 橋本数理物理学研究室, 客員主管研究員 (60012382)
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キーワード | 加速度系 / Rindler時空 / 地平面 / de Sitter時空 / 対称性 / 固有モード / 伝播関数 / エントロピー |
研究概要 |
加速度系における量子場の研究において、昨年度は一様加速度系を記述するRindler時空での粒子交換相互作用とそれによる束縛状態の安定性を調べ、欧文誌(Physical Review D)に発表した。その研究では、Rindler時空が持つ地平面近くでの量子場の振舞いが重要なテーマであったが、今年度はこのテーマを発展させ、地平面を持つ時空の対称性による量子場の固有モードや伝播関数の特徴づけと、地平面近くでの近似法としてのRindker時空の拡張を試みた。 宇宙の初期や終末期を記述するとされるde Sitter時空は、1次元高いMinkowski時空に埋め込まれているため、対称性の考察が簡単である。この時空で静的座標(static coordinate)を選ぶと地平面が現れることも知られている。このことを用いて、静的座標での対称性とその変換演算子を調べ、スカラー場の固有モード、粒子スペクトル、伝播関数に対称性がどのように反映されるかを研究した。 地平面を持つ時空の多くは球対称性を持つが、地平面近くでの近似として頻繁に用いられるRindler時空はこの対称性を持たない。そのため、近似の使える範囲が角度変数の狭い領域に限られる。我々は球対称性をもつ類似の時空として、(1+1)Minkowski時空と球面との積空間でMinkowski部分をRindler座標に変換した擬似Rindler時空を考え、この時空での量子場を考察した。特にスカラー場の固有モードや伝播関数は、この時空でも、上で述べた静的座標でのde Sitter時空でも解析的に求まるので、両者の地平面近くでの振舞いを調べ、近似的に一致することを確かめた。これは擬似Rindler時空が球対称な地平面を持つ時空の地平面ちかくでの近似として有効であることを示唆している。さらに、この時空でのスカラー場のエントロピーを計算して、地平面近くでの熱力学的性質を研究した。現在、こうした成果を論文としてまとめる作業を行っている。 この研究は、ドイツ、エルランゲン大学のレンツ名誉教授、東京大学の太田名誉教授と協力して進めていいるが、今年度は研究代表者がエルランゲン大学へ出張し、太田教授も合流して共同研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一様加速度系を記述するRindler時空での量子場の振舞いを詳細に研究し、Unruh効果の機構解明と有限温度でのハドロン系への応用が目的であったが、これまでの研究で量子場の固有モードや伝播関数、それに基づく粒子交換相互作用を研究して欧文誌に発表し、さらに地平面近くでの現象の研究に発展させた。ハドロン物理との結びつきはまだ十分ではないが、今後重力/ゲージ場対応やRindler時空でのWilson loopの計算などを通して結びつきを強められると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はこの研究の最終年度になるので、これまでの研究をさらに進めるとともに、今年度の成果とその発展を論文にまとめて欧文誌に発表する予定である。具体的には、今年度行ったde Sitter時空での対称性や地平面近くでの量子場の考察を、重力/ゲージ場対応で問題になるAnti de Sitter時空およびそれにブラックホールを加えた時空に広げ、球対称な擬似Rindler時空を用いて、地平面近くでの物理現象を考察する。特にエントロピーなどの熱力学関数の振舞いを調べ、重力1ゲージ場対応を用いて、有限温度のハドロン物理への手がかりとする。また、地平面を持つ時空でのWilson loopの計算もハドロン物理の研究に有効であると考えている。今年度の成果はできるだけ早く論文としてまとめ、欧文誌に投稿するとともに、来年度期待される進展についても論文としてまとめられるように努力する。 来年度は、研究代表者と太田教授のエルランゲン大学訪問とレンツ教授の理研招聘の両方を実現させ、集中的な共同研究を行って、研究を進展させたいと考えている。
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