平成24年度は主として事象の地平面付近における量子場の研究を行った。地平面を持つもっとも簡単な時空として、一様な加速度系を記述する Rindler 時空におけるスカラー場の伝播関数や熱力学特性関数の研究を進めてきたが、後者では従来の計算に不適切な近似が使われていることがわかり、正しい近似の下での計算を行って、地平面付近での振る舞いを詳細に調べた。Rindler 時空におけるスカラー場の固有モードには、特徴的な対称性があり、これがエネルギースペクトルに反映されているが、従来の計算ではこの特徴が考慮されていない。本研究ではこの特徴を活かすことにより熱力学特性関数に対して比較的簡単な近似的表式を得た。得られた結果は、地平面付近での振る舞いや面積に比例するなどの定性的性質は従来の計算と同じであるが、定量的には大きく異なることがわかった。現在、この研究についての論文を作成中である。また、Schwarzschild ブラックホールをはじめとして、地平面を持つ多くの時空は球対称であるが、簡単な例として、Rindler 時空を球対称な地平面を持つように変更した擬Rindler 時空や静的座標での de Sitter 時空におけるスカラー場にたいしても同様な研究を進めている。 この研究はドイツ、エルランゲン大学の Lenz 名誉教授、太田東京大学名誉教授との共同研究で進めているが、平成24年8月には研究代表者と太田名誉教授がエルランゲン大学を訪問し、上で述べた熱力学特性関数の計算における従来の近似を検討した。また、同年10月中旬から12月初旬にかけて Lenz 名誉教授を理化学研究所に招へいし、正しい近似の下での計算を行うとともに、球対称な時空でのスカラー場の研究を進展させた。
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