研究概要 |
低エネルギー太陽ニュートリノ及びニュートリノを放出しない2重ベータ崩壊事象の観測実験を目指して、咋年度にベンゾニトリルに2w.t.%の溶解度を持つ、インジウム・キノリノール錯体(InQ 3)及びジルコニウム・キノリノール錯体(ZrQ 4)による液体シンチレータの開発を行った。蛍光発光機能を有するこれらの錯体は、InQ 3は発光波長559nm、吸収波長394nm、及びZrQ 4は発光波長548nm、吸収波長383nmにピークを有するスペクトルを得ていたが、光電子増倍管の量子効率が最も高い400nmに比べると長波長であった。従って、光量がそれぞれ標準シンチレータBC505の9.9%および7.3%であり、量子収率は15.6%(光学的には5.0%)及び11.5%(1.1%)に留まった。そこで、発光波長の短波長化と量子収率の改善のために、トリアジン置換基を導入した新規のインジウム・キノリノール錯体(InQ'3)を合成した。合成した錯体は、トリス[5-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-8-キノリノラト]インジウム(C43H33InN1209 MW=964.62)であり、昨年度合成したトリス[8-キノリノラト]インジウム(C27H18InN303 MW=547.28)に比べて、ベンゾニトリルに対する溶解度は、ほぼ同様であることを確認した。蛍光発光スペクトルを測定した結果、発光波長は503nm、吸収波長は380nmにピークを有しており、期待通りに短波長の発光スペクトルを得ることができた。ガンマ線による放射線計測を行った結果、InQ3と比べてInQ'3の光量は2.7倍に増加していた。発光波長の短波長化により光電子増倍管の量子効率が0.093から0.188に2.0倍程度に改善していた。また、量子収率は26%が得られ、およそ10%がPOPOPの残光の影響であると考えると、実効的には3倍の改善が得られた。これから、置換基を導入したキノリノール配位子による液体シンチレータの性能改善を立証することができた。
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