研究概要 |
初年度は,微弱なシンチレーション光の高感度な測光系を構築した。同系では,分光器で分光した微弱なシンチレーション光の光子計数を,シンチレータ近傍の直接光との同時計測で行なうことで,光電子増倍管の暗電流ノイズの影響を低減した高いSN比での測光を可能にする。なお,測光系で必要な物品のうち,パルスチューブ冷凍機のコールドヘッドと温度コントローラを購入して借用品と置き換えた。 構築した測光系を用い,平成22年12月に液体キセノンシンチレータの発光波長の測定試験を行なった。信号処理電子回路は,CAMACシステムの電荷積分型のADCを導入して光電子増倍管の出力電荷量を測定し,同時計測回路系のタイミングを液体キセノンに適するように設定した。光学系は,分光器のスリット幅を約1nmの波長幅に相当する値に設定して,160-190nmで1波長あたり1,000秒間の測光を行なった。 以上の結果として,じゅうぶんなSN比で発光スペクトルを取得することに成功し,暫定的な結果ながら,発光のピークの波長が約175nm,ピークの幅(FWHM)が約10nmであるとの初期結果を得て,1965年にJortner等が報告した結果と有意な差異があることが明らかになった。この結果は液体キセノンを用いて現在進行中の宇宙暗黒物質探索実験XMASSや,μ粒子希崩壊探索実験MEGで貴重なデータとなる。なお,液体キセノンは実験毎に様々な圧力および温度で用いられ,また,励起する放射線種による発光波長の違いがある可能性を否定出来ないことから,今後に様々な条件で発光波長を測定する準備を開始した。 なお,以上の進捗状況と初期の結果は,2010年12月から2011年3月までに行われた2つの研究会と1つの学会において報告した。
|