研究課題
ミクロで動的な元素合成に目を向けると、強大な核力(強い相互作用)は当然として、意外にも弱い相互作用の働きが大きい事に目をみはる。巨星の超新星爆発に伴う高温高密度状態でのニュートリノ起源の元素合成はその典型的な例である。ニュートリノは弱い相互作用のみで元素合成に関与するが、ニュートリノそのものを使っての元素合成研究は、ニュートリノの相互作用の弱さ故に絶望的である。同じく弱い相互作用によるベータ崩壊の研究では、半減期から反応速度(遷移強度)の絶対値が決まる事で重要な役目を果たすが、崩壊測定ゆえに高励起状態のニュートリノ起源の元素合成への寄与を研究できない。そこで、核子当たり100MeV以上、0度を含む超前方での測定という条件の下では、強い相互作用で起こる荷電交換反応が、逆ベータ崩壊のように振る舞い、弱い相互作用で起こる代表的な遷移である、フェルミ遷移と共に、ガモフテラー遷移を高励起状態まで研究可能である、ということに目をつけた。その目的のため 1) 超新星爆発に関与する pf-核におけるガモフテラー遷移を、高分解能が得られる (3He,t) 荷電交換反応を用い系統的にの研究した。さらに 2) ベータ崩壊の研究で低、中励起状態への遷移強度の絶対値を決め、それを標準とし、荷電交換反応で得られる高分解能を武器に、高励起状態へのガモフテラー遷移強度を明らかにしつつある。1) の実験は大阪大学で、2) の研究は、千葉・HIMAC加速器研究施設、ドイツ・GSI 研究所、フランスの GANIL 研究所で行ってきた。実験結果の解析を、大阪、Valencia(Spain)、Istanbul(Turkey)、Bourdeaux(France) 等の国際合同チームで行っている。この1年間でPhysical Review Letters 誌への掲載を含む6編の論文を出版した。
2: おおむね順調に進展している
(理由)大阪大学・核物理研究センターでの実験、スペイン・Valencia グループとの共同実験、データ解析、解析結果の国際会議での発表、論文の執筆等、歯車がかみ合った状態にある。残念ながら理化学研究所で行う予定であったベータ崩壊実験は、電力不足の影響で延期になっている。
(今後の推進方策)ガモフ・テラー遷移の研究の為、(3He,t)荷電交換反応の実験を、大阪大学物理研究センターで24年度に行った。共同研究を進めているスペイン・バレンシアIFIC研究所、トルコ・イスタンブル大学のグループ、更にドイツ・ケルン大学の研究者も加わり、解析を進めている。更に新たに(7Li,8Be) 反応の実験申請が受理された。100 MeV/nucleon 程度の高い入射エネルギーでの高分解能荷電交換反応の実験は、世界的にユニークであり、それぞれの解析で、新しい知見が得られつつある。今後も地道なデータ解析・研究を続ける。また荷電交換反応で得られる情報とは鏡映対称な関係にあるガモフ・テラー遷移の情報が、ベータ崩壊実験から得られる。理化学研究所では、この鏡映対称なガモフ・テラー遷移を調べる実験提案が受理されている。実験は、ベータ崩壊により放出される陽子(遅延陽子)とガンマー線(遅延ガンマー線)の測定が必要となる。その為、大規模なガンマー線検出器を使う事が可能な、EURICA 計画に参加している。スペイン・バレンシアのグループ、フランス・ボルドーのグループも参加を予定している。当初実験を25年度後半に予定していたが、電力事情で遅れている。質量数40程度までのベータ崩壊実験は、放射線医学総合研究所での研究が適している。26年4月に質量数18、及び30の原子核のベータ崩壊実験を予定している。またフランス・GANIL研究所でのベータ崩壊実験提案が採択された。大阪での荷電交換反応で得られたデータを基にし、準備研究に着手する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うちオープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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