本研究は、シリコン30とキュリウム248の融口反応により、原子番号110の原子核を合成するための融合反応機構を解明するとともに、新同体Ds274の合成を合成することを目的とする。本年度は反応機構を解明するため、シリコン30ビームをウラン238に照射して核分裂片を測定することで、キュリウム248と同様にラグビーボール型に変形しているウラン238の融合反応に及ぼす原子核の変形効果を調べた。原子力機構タンデム加速器からのシリコン30ビームをウラン238の薄膜標的に照射し、生成される核分裂を多芯線比例計数管(MWPC)で同時計測した。核分裂断面積の励起関数は、1次元障壁透過モデルに比べて低エネルギー側で増大し、ウラン238の変形によって低エネルギーでも反応が起こることを確認した。また、核分裂片質量数分布の測定を行った。高い衝突エネルギーでは質量対称な分布を示したのに対し、サブバリアエネルギーでは非対称な成分が現れた。 この非対称成分は、準核分裂であると考察した。ウラン238の先端部への衝突では準核分裂が多く、赤道面への衝突では融合確率が高いと考え、融合反応に及ぼす標的原子核の変形効果を明らかにした。揺動散逸理論を適用し、原子核どうしが衝突してからの反応過程を計算で調べた。ここで原子核の変形効果を取り入れ、複合核核分裂の全核分裂に対する割合を融合確率とした。計算は、実験の質量数分布の変化を再現した。また、当サブバリアエネルギーでは準核分裂する確率が増えるものの、融合確率が15%程度存在することがわかった。同様に、サブバリアエネルギー反応を利用することで、Si30+Cm248の反応でもDs274が合成できる可能性があることがわかった。
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