量子常誘電体試料に一軸性圧力を印可ることにより、量子臨界点に迫る。光散乱実験により、量子臨界領域と量子強誘電状態の動的構造を、長さと時間のスケールの観点から明らかにする。また、量子臨界領域との関連において、量子常誘電体状態(常圧)の位置づけを明確化することが本年度の研究目的であった。 一軸性圧力を0.8GPaまで印可しながら、約2Kまでの低温領域で光散乱を可能とするクライオスタット系を構築することに成功し、以下の新しい知見を得た。 1.量子常誘電体SrTiO_3のおいて、その量子常誘電状態から量子強誘電状態への臨界圧力で、横波音響波が突然現れることを見いだした。その結果、これまで量子強誘電相の出現はSlaterモードのソフト化によるものだと半世紀にわたって思い込まれてきたことを完全に覆すことになった。 2.量子強誘電相を引き起こす強誘電性ソフトモードは存在するが、完全にはソフト化していないことを発見した。量子常誘電体状態が空間的に不規則系であり、長さのスケールを持っているという、我々の主張を支持する結果となった。 3.これまで、強誘電性マイクロ領域と呼ばれてきたものは、そうではなく、完全にはソフトしない強誘電性ソフトモードのなれの果てである可能性がでてきた。 以上の結果は、2011年6月に開かれるヨーロッパ強誘電体会議で口頭発表することに決定している。
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