研究課題/領域番号 |
22540323
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
辻見 裕史 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (20113673)
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キーワード | チタン酸ストロンチウム / 光散乱 / 量子常誘電体 / 量子臨界点 / 一軸性圧力 / 時空間スケーリング |
研究概要 |
SrTiO3の[010]c方向に一軸性圧力を印可して行くと、強誘電性ソフトモードであるSlaterモードがソフト化(その周波数ωsが臨界圧力σ_cでゼロとなる)して、[001]c方向に自発分極を持つ量子強誘電状態に転移するというのが、これまでの常識であった。(1)5.0K、10.3K、16.5Kの3つの温度において、光散乱の手法を用いてωsの一軸性圧力依存性を詳しく調べたところ、σ_cでもωsはゼロとならずに最小値に止まることが分かった(σ_cはkgf/mm^2を単位として、5.0Kで7±1、10.3Kで8±1、16.5Kで13±1)。つまり、Slaterモードのソフト化が不完全であるということを見いだした。(2)σ_cで横波音響フォノンが突然現れることを新たに発見し、結晶の対称性から量子強誘電状態における自発分極の向きが[001]c方向でないことを示した。上記(1)と(2)の実験結果から、量子強誘電状態を発現するモードはSlaterモードではないと結論づけた。これまでの常識を覆したという点で物理的にきわめて重要な結論である。一方、同SrTiO_3において、ブロード・ダブレット(BD)なる光散乱ピークが量子常誘電状態に特徴的に現れることが知られている。入射光と散乱光の偏光が一軸性圧力に対して垂直な場合、BDの強度がσ_c近傍で異常増大することを見つけた。一方、入射光と散乱光の偏光が一軸性圧力に対して平行な場合は、この増加が見られない。BDの物理的起源はまだよく分かっていないが、今回の実験で、少なくとも、BDは量子常誘電状態から量子強誘電状態への転移に伴う臨界現象に関連するモードであることが新たな知見として得られた。また、BDの周波数と線幅から求めた量子常誘電状態を特徴づける空間スケールは、温度一定の条件下で圧力にほぼ依存しないことも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を遂行する過程で、研究目的を越える思いもよらぬ事実、すなわち量子強誘電状態を発現する強誘電性モードはSlaterモードではないことが分かった。これまでの常識を覆したことになる。第12回ヨーロッパ強誘電体会議にて口頭発表し、高い関心を集めた。また、その成果は論文として、すでに受理されている。
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今後の研究の推進方策 |
研究を遂行する上での問題点はない。申請書に書いた実験計画を一歩、一歩進展させるだけである。だた、研究目的を越える発見があったので、その方向での研究をも発展させる積もりである。
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