課題最終年度となる本年度は、スピン流の電気的制御可能系として最も有望である「非平衝ラシュバ量子ドット干渉計」を重点的に研究を行った。予算執行の内容は,課題遂行に必要となった、専門書籍・計算機周辺機器等の購入、研究課題に関する成果発表を行なった日米物理学会への参加出張滞在費、論文掲載料金である。本年度の研究実績は以下の通りである。 ① スピン輸送の制御パラメータとして本年度当初は横磁場を想定していたが、応用上は電気的にスピン流を制御できる方が望ましいことから、新たに電気的制御法を探索した。結果、量子干渉計に対して第三電極を導入することで、スピン流生成の同定と制御が可能となることが明らかになった(日本物理学会発表済)。 ② [他の手法との比較] 有効場理論と独立な手法として非平衝摂動計算を行い、有効場理論の結果と比較・検討を行った。リング型干渉計について2次摂動計算を解析的に評価したのは今回の研究が初めてである。摂動論の結果はこれまでの有効場理論の結果と整合的であり、その妥当性を独立に確認することができた。低バイアス領域においてはスピン流を解析的評価することで、その理解が進んだ(日本物理学会&米国物理学会発表済)。 ③ [計数場依存有効場理論] 非平衝量子ドット系に現れる計数場依存自己エネルギーの性質を詳しく調べた。自己エネルギーの計数場依存性はワード恒等式と呼ばれる一般的関係により支配され、汎関数繰り込み群のフロー方程式としても解釈可能であることが明らかになった(日本物理学会発表済)。 ④ 干渉計に埋め込むドットとして準位縮退をもつラシュバ量子ドットを考えると、単一準位系の場合と同様に、スピン流が非平衝生成することがわかった。生成されるスピン流は縮退度に比例し増大するため、多重縮退準位をもつ量子ドット系はスピン流生成に有利であることが明らかになった。
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