研究課題/領域番号 |
22540327
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 修一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (30282685)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / 表面状態 / 輸送現象 / 熱電変換 / 量子ホール系 |
研究概要 |
トポロジカル絶縁体の界面・表面状態に関する新規物性現象の探索を引き続き行った。 まず、異なるトポロジカル絶縁体を2種類接合したときの界面について引き続き理論的研究を行った。トポロジカル絶縁体の表面状態はディラックコーンと呼ばれる特徴的なエネルギー分散を持ち、それぞれの状態のスピンの向きはカイラリティを持つ。そのカイラリティが異符号のもの同士を接合すると、かならず界面状態がギャップレス(金属的)に残ることを前年度に理論的に見出したが、通常この界面状態は一般にディラックコーンが偶数個の集まりになる。今年度はこれについて、粒子正孔対称性がある場合はこのギャップが閉じる点が線状に並ぶという特異なバンド構造を示すことを見出した。さらにこれがパフィアンと呼ばれる量の符号で特徴づけられることを見出した。このパフィアンで特徴づけられる特異な界面状態は質的に新しい状態と考えられる。 またトポロジカル絶縁体の薄膜では、表面と裏面に現れるギャップレス状態の混成により、表面状態がギャップを開くことが知られている。この状態に磁場をかけることでどのように表面状態が変化するかを系統的に調べた。その結果、面内磁場をかけた時にできるWeyl半金属状態が鏡映対称性で守られていることや、そこでゲート電圧をかけたときのエッジ状態に速度が出ることなどを見出した。 さらにこれらの研究から派生した研究課題として、スピン軌道相互作用のない蜂の巣格子やダイヤモンド格子上の模型での、分散のない平坦バンドをなすエッジ状態・表面状態の振る舞いを研究した。等方的模型の場合は平坦バンドはブリルアンゾーンの一部を覆っているが、模型の異方性を増していくと、バルクはギャップを開く一方でエッジ・表面はブリルアンゾーン全体を覆う平坦なバンドとなることを見出した。またこれを利用して、3次元方向全てに完全に局在した状態の構成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トポロジカル絶縁体の界面状態について、速度の符号が逆のものの界面でギャップレス状態が現れるなど、当初の目的にない予想外の興味深い理論的予言をすることができた。速度が逆符号である物質の実験例も出てきており、今後の理論、実験両面への波及効果が期待できる。また界面の分散も多様であることが分ってきており、理論的にも興味深い。 また当初の計画になかった結果として、スピン軌道相互作用のない模型のエッジ・表面での平坦バンドが異方性の増加によりブリルアンゾーンを覆うことを見出したが、これは例えば相互作用による強磁性発現のための模型として興味深い。それとともに、この状態がブリルアンゾーン全体を覆うことから、3次元方向に完全に局在した固有状態を構成することが可能となり、これは統計力学の問題としても面白いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今までに知られているトポロジカル絶縁体は、表面のディラックコーンの速度の符号(カイラリティ)が全て同一である。前年度から今年度にかけての研究成果であるギャップレス界面状態の予言を確かめるためには、カイラリティが逆のものを発見する必要があるが、この候補となる物質Bi4Se3についての実験結果が最近発表されており、この物質を切り口にさらに物質探索を進める。特に、速度の符号を決める因子を探索すること、また逆符号の速度の接合や、さらに超格子構造などを作った場合のバンド構造などを中心に理論的探索を進める。 一方、今年度の成果として挙げている内容については平成25年度に入った現在論文執筆を進めておりこれを最優先に行う。
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