Agを可動イオンとする超イオン伝導ガラスにはミクロ相分離の傾向を示す物質が多い。これは融体中ですでに存在するAgイオンの協同拡散により、Agイオンの分布に大きな揺らぎが生じるためと考えられる。また、そのためAg-(GeSe3)混合系では、x=0.3のAg濃度を超えるところで、室温でのイオン伝導度が約8ケタ大きくなる絶縁体-超イオン伝導体転移がみられる。そこで、室温のガラス状態でのAgイオンの揺らぎをより精度よく調べるため、これまで行ってきたX線回折、中性子回折、EXAFS測定に加えて、X線異常散乱測定をESRF(フランス・グルノーブル)のBM02ビームラインにて実施した。とくに構造因子に現れる中距離相関の指標とされるプレピークが生じる原因に関して、これまでの構造モデリングの定量性にまだ不十分な部分があることが分かった。またミクロ相分離を観測するためJ-PARC・MLFのBL15小角・広角散乱装置を用いて、Ag-(GeSe3)の溶融相およびガラス状態を測定した。溶融状態から降温過程で小角散乱がどのように成長するかに興味があったが、高温炉の持つ小角散乱強度に比較して試料由来の散乱強度が弱く観測できなかった。一方室温のガラス状態では、ミクロ相分離による明瞭な小角散乱強度を観測した。 さらに、Ag-GeSe3の室温ガラスに関して中性子非弾性散乱実験をJ-PARC BL14にて実施した。Ag拡散による準弾性散乱の裾は、ガラス由来の低エネルギー励起(ボゾンピーク)と重なっており、期待に反して、x=0.3のイオン伝導転移にともなう変化は、それほど大きくないことが分かった。 一方、Agを含む溶融塩混合系では、アルカリ金属イオンと置換していく過程で自発的に中距離相関を形成することを平成22年度、23年度に本課題の一環として見出しており、論文投稿(投稿中)を行った。
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