研究課題/領域番号 |
22540332
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
稲岡 毅 琉球大学, 理学部, 教授 (40184709)
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研究分担者 |
柳澤 将 琉球大学, 理学部, 助教 (10403007)
武田 さくら 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (30314537)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Si, Ge / バンド / 異方性 / 歪み / 表面反転層 / 表面・界面物性 / 半導体物性 |
研究概要 |
現代版kp法と第一原理計算を相補的に用いて、[100]、[111]、[110]、[11-2]方向の1軸歪み、(001)、(111)、(110)面内の2軸歪みの各歪みにより誘起されるバルクSi価電子帯の異方性を解析した。キャリア伝導では第1価電子帯のホール有効質量m*が重要であるが、1軸圧縮での歪みと平行な方向、2軸伸長での歪み面と垂直な方向でのm*が顕著に下がる。また、1軸圧縮(伸長)とこれに垂直な面内での2軸伸長(圧縮)は、価電子帯に同じ効果を及ぼす。さらに、垂直応力ゼロの条件下で2軸伸長歪みに伴う垂直圧縮の効果も調べた。(論文印刷中) 現代版kp法を用いて、種々の1軸、2軸伸長歪みによるGeの間接バンドギャップから直接バンドギャップへの転移を解析した。1軸伸長の方向、あるいは2軸伸長の歪み面が、注目するL点での等エネルギー面の長軸方向と平行あるいは平行に近いとき、小さい歪み量で伝導帯Gamma点のエネルギー E_G が伝導帯L点のエネルギ E_L よりも低くなる。E_G がすべてのL点の E_L よりも低くなるとき、転移が起こる。この研究は次年度に継続。 本研究と関連して、吸着によりn型InAs表面に誘起されるキャリア蓄積層形成過程におけるサブバンドの変化を解析した。非放物型の伝導帯分散を局所密度汎関数法に組み込む方法を光電子分光の実験結果を組み合わせることにより、サブバンド構造を正確に評価した。(論文掲載済み) 角度分解光電子分光法で価電子分散構造を測定した2軸伸長歪みSiについて、産業技術総合研究所の多田博士らの協力により紫外ラマンによる測定を行い、本試料が可視光ラマン分光で求めた歪み量よりも小さい歪み量を持つことが明らかになった。また、Ge(001)の表面近傍の価電子状態の測定を行い、重い正孔、軽い正孔、及びスプリットオフバンドのバンド分散構造を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論的研究では、Siバルク価電子帯構造に及ぼす歪みの効果について、現代版kp法と第一原理計算の併用により、多くの歪みの方向、面方位に対して、歪みが誘起するバンドの異方性を明らかにすることができた。この研究過程で、内部歪みがバンド間隔に大きな影響を与えることが分かり、来年度への課題を残した。 Geバンド構造を間接バンドギャップから直接バンドギャップに転移させる伸長歪みの効果を解析した。現代版kp法の解析から、歪みの方向、面方位により歪みの効果が著しく異なることなどが分かったが、局所密度汎関数法による第一原理計算を行ったところ、バンドギャップの過小評価が大きな障害となることが判明した。この障害は、Geの研究だけでなく、狭ギャップ半導体における歪みの効果を調べる研究にも影響した。解決策を探るためにかなりの時間を要し、混成汎関数法が有効であることを確かめた。この計算方法により、来年度には成果が出ると期待される。 kp法による表面反転層サブバンドの計算に歪みの効果を組み込む方法を用いて、Ge表面サブバンド構造に及ぼす歪みの効果を調べる研究まで進むことを期待したが、そこまでは至らなかった。 実験的研究では、2軸伸長歪みSiの歪み量が紫外ラマンによって詳細に求まったことにより、実験的に歪み量とバンド分散構造の関係を見ることが出来、理論との比較に耐えうる実験データを揃えることが出来た。また歪みのないGe(001)のバンド分散構造を明らかに出来たことは、Ge価電子帯バンド分散構造への歪み効果を調べる第一歩と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
理論的研究では、Siバルク価電子帯構造に及ぼす歪みの効果については、今年度の研究で内部歪みがバンド間隔に大きな影響を与えることが分かったため、来年度は第一原理計算により、内部歪みの効果についても解析することになった。これまでの計算の延長として行える研究であり、来年度には成果が出ると期待される。 Geバンド構造を間接バンドギャップから直接バンドギャップに転移させる伸長歪みの効果については、混成汎関数法により、バンドギャップの過小評価に由来する障害を解決できることが分かったため、来年度はこの計算方法により、様々な方向、面方位の歪みが転移を誘起する効果を定量的に解析する。 kp法による表面反転層サブバンドの計算に歪みの効果を組み込む方法を用いて、Ge表面サブバンド構造に及ぼす歪みの効果を調べる研究に今年度は着手できなかったので、この研究を来年度行う予定である。 実験的研究では、1軸伸長歪みGeの価電子分散構造を実測し、無歪みの場合と比べた変化について、計算結果と比較を行う。また、これまでに調べた2軸伸長歪みSiの電子状態について理論結果との比較を詳細に行う。
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