平成22年度はグラフェンにおけるカイラル対称性とそれに伴って生じるゼロエネルギーランダウ準位における異常性との関係について、二次元蜂の巣格子模型に基づく数値計算により詳しく調べた。 特に、現実のグラフェンでは無視できない次近接ホッピングによるエネルギーバンド全体のカイラル対称性の破れの効果を検証するために、蜂の巣格子に一様な次近接ホッピングを導入し、ホール伝導度(チャーン数)を精密な数値計算により求めた。その結果、バンド全体のカイラル対称性が破れても、ディラックコーン付近の有効ハミルトニアンにおいてカイラル対称性が漸近的に保存していれば、ゼロエネルギーランダウ準位における量子ホール転移の特異な臨界性が保たれることを明らかにした。 さらに、有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3に代表される傾いたディラックコーンを持つ場合に、グラフェンで見られたような異常性が存在するのかについて調べるために、ディラックコーンの傾きが調節できるような二次元格子模型を考え、異常性の有無を数値的に調べた。その結果、ゲージ場の乱れに帰着するようなランダムネスに対しては、コーンの傾きによらずに、異常性が存在することを数値的に明らかにした。このことは、グラフェンで見られた異常性が他の有機導体でも存在する可能性を示唆している。 二層グラフェンに対しても解析を進めており、カイラル対称性が保存していれば、ディラックコーンが存在しなくても異常性が存在するという結果を得た。今後、こうした成果を踏まえ、二層グラフェン、傾いたディラックコーンに対してより詳しい解析を行い、実験結果の解明を目指す。
|