研究課題/領域番号 |
22540336
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
河原林 透 東邦大学, 理学部, 教授 (90251488)
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キーワード | 物性理論 / メゾスコピック系・局在 / グラフェン / 有機導体 / カイラル対称性 |
研究概要 |
平成23年度は、前年度に得られた成果を踏まえ、有機導体に見られるような傾いたディラックコーンを持つ系や2層グラフェンにおける量子ホール転移の臨界性について、カイラル対称性やそれに伴って現れるゼロモードの異常性について詳しい解析を行った。 傾いたディラックコーンに対しては、前年度までに数値的にはゼロエネルギーランダウ準位の異常性がグラフェン同様に現れることがわかっていたが、グラフェンと違い、通常のカイラル対称性が破れているため、対称性の役割が不明であった。これに対し、今年度新たに、通常のカイラル対称が傾いたディラックコーンも含むように一般化が可能であり、その一般化された対称性が保存していればゼロエネルギーランダウ準位の異常性が起こることを解析的に示すことができた。さらに、この一般化されたカイラル対称性が、ハミルトニアンが微分演算子として楕円型であることと等価であり、指数定理と直接関係していることも明らかにした。この結果は、有機導体においても、ゼロエネルギーランダウ準位が系のランダムネスに対して他の準位よりも安定であることを示唆している。 2層グラフェンに関しては、前年度に引き続き解析を進め、カイラル対称が保存していれば、ゼロエネルギーランダウ準位に異常性が現れること、また、2つのゼロエネルギーランダウ準位のうちの1つは、電場をかけてカイラル対称性を破ってもトポロジカルな安定性を保つことを数値的に示すとともに、有効理論を用いれば、解析的にも電場中のランダウ準位の安定性が示せること、また、数値計算の結果と有効理論が定量的にもよい一致を示すことを明らかにした。 今後はこれまで取り入れてこなかったtrigonal warpingの効果や電子間相互作用による対称性の低下の効果などについてもさらに詳しく解析を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績のなかで述べたように、カイラル対称性の一般化とその有用性という新しい概念を構築することができたこと。また電場中の2層グラフェンに対してもランダウ準位に対するランダムネスの影響として、新しい概念を提案することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で最後に触れたように、これまでの成果を踏まえ、2層グラフェンにおけるtrigonal warpingの効果や相互作用による対称性の低下の効果といった問題について引き続き詳しい解析を行い、新たな概念がどのように実際の実験に反映されるかについて明らかにしていきたい。また、カイラル対称性の効果が、3層グラフェンや光格子上の冷却原子系で実現されうるフェルミオン・ダブリングのないディラックコーン系などといった他の系において、どのように現れるのかについても研究を進める予定である。
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