研究課題/領域番号 |
22540336
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
河原林 透 東邦大学, 理学部, 教授 (90251488)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 物性理論 / メゾス小ピック・局在 / グラフェン / ディラック電子 / カイラル対称性 |
研究概要 |
昨年度までの成果を踏まえ、今年度は、二層グラフェンにおいて、層間のホッピングによるtrigonal warpingの効果によって、1つのバレー(ディラック点)あたりディラックコーンが低エネルギー領域では4つ現れることに伴うゼロエネルギーランダウ準位の縮退数の低磁場極限での変化とそれらのランダムネスに対する安定性とについて、グリーン関数法を用いて、低磁場、かつこれまでよりも大きな系での数値計算を実行し、その様子を詳細に調べた。その結果、ランダムネスがカイラル対称性を保存し、空間的に相関を持っている場合でも、実際のリップルのスケールに対応するような相関長の範囲では、4つのゼロエネルギーランダウ準位のうち、ランダムネスに対して安定性を示すのはtrigonal warpingが無視できる極限でも存在する2つのゼロエネルギーランダウ準位のみであり、他の2つのランダウ準位はランダムネスによるディラックコーン間のバレー内散乱によって分裂を起すと同時に幅を持つことがわかった。このことはランダムネスに対する安定性を示すランダウ準位の数は1つのバレーにおけるディラックコーンのベリー位相の総和によって幾何学的に決まっていることを示唆している。 また、光格子上の冷却原子系で実現が期待されているような、2つのディラックコーン間のエネルギー差を制御した場合に、ゼロモードランダウ準位の安定性がどのように表れるのかについても調べた。その結果、これまで、エネルギー差が無くディラックコーンが縮退していたときには、カイラル対称性があっても、ランダムネスに空間相関が無いとゼロモードランダウ準位の安定性が崩れていたが、エネルギー差を導入すると、そのような場合でも安定性が再び表れることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、磁場下の二層グラフェンにおいて現実的なパラメータの状況に近い系を扱うことができ、trigonal warpingの効果について明らかにすることができたこと、また、これにより、ゼロエネルギーランダウ準位の安定性に関して、ディラックコーン間の散乱というだけでなくそのベリー位相の符号といった幾何学的な性質が本質的であることを明確にすることができたため。さらに、光学格子上の冷却原子系で実験可能な系についても具体的な提案をすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、グラフェンに関しては、3層グラフェン、ケクレ型のボンド秩序がある場合のグラフェンなどについて、さらに引き続きに研究を進める。特に、近年実験の精度が上がっている局所状態密度の情報についても取り扱う予定である。また、光学格子上の冷却原子系においても、ディラックコーン間にエネルギー差があり、かつディラックコーンが傾いている場合などについても調べ、我々が見いだした一般化されたカイラル対称性の役割を明らかにしていきたいと考えている。
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